今日はやっぱり10年前のことを書こうかと思いましたが、文章を、書いては消して、書いては消して、を繰り返しています。何を書けばいいのか。あの日、自分自身が体験したことを書いてもいいのですが、大切な人を失ったり、本当に、本当に、辛い日々を乗り越えて今日を迎えられた人々と比べたら、私の体験なんて大したことがなくて書けないのです。

　だから今日は、誕生日の話を書きます。競馬ファンならご存知の方も多いと思いますが、今日はトーホウジャッカルの誕生日です。尾花栗毛のイケメン牡馬の生年月日は、2011年3月11日。そう、10年前のあの日、たくさんの命が奪われた中で産まれた、新しい命でした。しかし、2歳の夏に腸炎を発症。体重が50kg近くも減り、競走馬としてのデビューすら危ぶまれる状態になりました。一時は生死の境を彷徨ったけれど、遅ればせながらダービー前日にデビューし、後に菊花賞馬になるのです。

　もしかしたら亡くなっていたかもしれない、競走馬としてデビューできなかったかもしれない。そんなトーホウジャッカルが菊花賞馬になれたのは、もちろん関係者の皆さんの努力の賜物だったとは思いますが、何か説明はできないけれど、見えない力がこの馬に働いた気がしてなりません。震災から10年の今年、トーホウジャッカルの初仔がデビューしたのも、偶然じゃない気がします。

　何年経とうと忘れられない記憶があります。今日一日、平穏に過ごせたことに感謝して、失われたすべての命に哀悼の意を込めて。