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万年筆を手に入れた!

出会い

今年3月半ばから万年筆に興味を持ち始めた。
なぜ正確に時期がわかるのかといえば、その時に友人が有名な文具店へと連れて行ってくれたからだ。

入るのをためらうような店の一角では、ショーケースの中で宝飾品のような万年筆が輝いていた。どっしりと太いペン、華奢で女性的なもの、豪華絢爛な蒔絵、木製のペン軸、ガラスのような透明感のある空色の軸、、、それぞれの個性が静かに、でも見られることを喜んでいるかのように競演していた。
私はこの時初めて万年筆というものをまじまじと見て、その外見の美しさに魅了されてしまったのだ!しかし当然のことながら、外見は万年筆の魅力の一部でしかないことを私はまだ知らなかった。

万年筆で書いてみたい!


「万年筆」「初心者」というキーワードで検索する日々が続き、PILOTのカクノという1000円ペンの存在を知った。6月末、早速文具店へ向かうとそこには「店員おすすめ!」として限定版カクノが並べられていた。

きっと書くのが楽しくなる。

これが、カクノのキャッチコピーだ。

カクノの評判の高さを調べてはいたものの、1000円と言えば私が愛してやまない三菱のジェットストリーム多機能ペン(4色+シャープペン)と同じ値段である。ボールペンはジェットストリーム以外を使いたくないため、自宅に一本、職場に二本、カバンの中に一本を用意し、常に肌身離さずの状態である。
それと同等の価値が、万年筆カクノにあるのか???
万年筆を使い始めた今では、ボールペンと比べるのはナンセンスだとわかったが、万年筆未体験だった私はその魅力を全然わかっていなかったのだ。

多色ジェットストリームと同じ1000円もするペンなのだから、書き味を十分吟味しなくては!と、試し書きコーナーを探しカクノの全ペン先(EF, F, M)を試してみた。

うん、これは確かに滑るようで書きやすい。そしてまたカリカリとした書きごごちが、なんとも「字を書いている」感を高めてくれる。

気に入った。きっと、きっと良いものなのだろう。

私は長い時間をかけて決心し、一色なのに1000円もする高級なペンを手に入れたのだった。
(ちなみに、インクはブルーブラックにする!と決めていた)

カクノ楽しい!

手に入れたカクノEF(極細字)は、愛用しているジェットストリーム0.5mmと同じくらいの細さだ。しかし文字を書くときの「カリカリ」という音がなんとも言えず愛おしい。耳でも「文字を書いている」ことを感じられる。

普段ツバメノートを使っているのだが、ジェットストリームではペンが滑りすぎてむしろ書きにくかった。それがカクノで書いた途端、このノートは万年筆のために作られたものなのだ、と実感した。運命の出逢いを果たしたかのごとく、ペンと紙とが呼吸を合わせてインクを滑らかに流していく。私の字は美しいとは言い難いが、いつもよりも端麗に見えた。文字の中に強弱が現れ、インクの濃淡も現れ、ペンが走った勢いがそのまま映されているようだ。

しかも、カクノはどんどん書きやすくなっている。初めペン先が若干紙に引っかかるような感覚があったが、それも薄れ滑りが良くなっていく。

万年筆は変化していく筆記具なのだ。

どんどん書くのが楽しくなる! カクノのキャッチコピーそのままに、私は1日に何回もノートを開いては文章とも言えないようなものを書き連ねていった。

万年筆貯金を始める

人間の欲は限りない。

カクノEFを使うにつれて、私は他の太さの万年筆も試してみたくなってきた。もう少し太いペン先だったら、どんな書き味になるのか、どんな風にインクの濃淡が現れるのか。カクノのFやMを買ってみたい、、、けれどもう少しグレードアップしたらどんな書き心地になるのだろうか。。。

またもや「万年筆」「カクノの次」で検索する日々が始まった。

先の友人にその旨を話したところ、1万円出せばいわゆる万年筆の形をしたペンを買えるのだという。

友人はそこで「カスタム74とか...」と具体的な商品名をあげてくれた。

PILOTカスタム74。

どんなレビューを見ても評判が高く、定番中の定番のようである。形も万年筆🖋と聞いてすぐ思い浮かぶものだ。

金色のペンクリップとキャップの飾りがアクセントになっていて、オーソドックスなのにどこか可愛らしい…
カクノとは違って金で出来たペン先らしい…
新価格となって12,000円…
ペン先の太さはEFの次だからF(細字)がいいかな…

私はカスタム74を持つことを夢見始めた。しかし、なかなかポンと買える価格ではない。

しかし欲しい。

そこで、万年筆貯金を始めた。

コンビニを控えてひと月目標2000円貯金する。5ヶ月で1万円貯まったら、クリスマス頃には買えるかしら。わくわくしながら、まずはと財布の中にあった2000円を封筒(貯金袋)に入れたのは、7月下旬のことだった。

万年筆をめぐる幸運!

その矢先の、8月半ばのことだ。

私と夫はたまたま近所の小さな文房具店が閉店セールを行っているのを見かけ、バス待ちの時間つぶしにと立ち寄ってみた。そこで運命の出会いが、と書くと大袈裟だが、あったのだ。

カスタム74 が半額の5,000円(旧定価が10,000円のため)で売られていた!

私が狙っていたF字がある。
ちゃんと試し書きのペンもある。

評判通りの柔らかな書きごごちに驚き興奮しつつ、バス待ちの数分の間に決断しなければならなかった。

まだ2,000円しか貯まっていない。。。
でも今半額で買えるかも。。。

逡巡は一瞬で、私はバスが来る1分前にカスタム74・F字を手に入れたのだった。

カスタム74はカクノとは書き味が違った。
何と柔らかく滑らかに動くペン先なのか。
これが金ペンということなのか、それとも極細字と細字の違いなのか。
二本しか知らないためよくわからないものの、確かに両者の間には大きな違いがある。

きっととても長い間、あの小さな文房具屋さんの小さなショーケースにそっと置かれていたこの万年筆は、私にインクを吸わされて喜んでいるだろうか。
このペンにとっても私との出会いは幸運だったのだろうか。

今はまだ私の手に馴染んでおらずぎこちない。私は1日に何回もノートを開き、ねじ式のキャップをそっと回し、文章とも言えないものを書き連ね続けている。まだ出会って2週間も経たないが、やはり変化してきている。一日一日書くごとに変化している気がする。今日はどんな風に育っているかしら、と毎朝ノートを開くのが楽しみなのだ。

万年筆に出会って、生活の中に楽しみなことが増えた。
万年筆誕生の歴史、生産会社や専門店の歴史、愛好家の世界にも、少しずつ興味が持てるようになった。私が知らなかった世界が広がっていることに気づいたのだ。何と幸福なことなのだろう!

これから先も、万年筆はその時々の私の感情を汲み取ってそのまま紙に映してくれるはずだ。1ヶ月後、半年後、1年後、自分がどういう状態か見当がつかないところがあるが、きっとこのペンは戦友になってくれる。そう思うとやはりとても愛おしいのである。


ジェットストリームは移動中や多色を使いたいときに、カクノ・EF字は携帯している手帳用に、カスタム74は自宅やカフェなどでじっくり書きたいときに、と使い分けることにした。それぞれ違う魅力があり得意分野がある。みんな違ってみんな良い。

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