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キユーピーの赤キャップ

 その日新宿三丁目のJに行ったらママはおらず、チーママのマリさんが一人でお店をやっていた。それまでは土曜日の夜に来ていて、平日に来たのは初めてだった。ママはああ見えてけっこうお歳を召していて、平日はマリさんだけでお店を開けることが多いんだとマリさんは言う。

 客も私一人だけ。8人座れるカウンターで、私はマリさんと一対一で向き合っている。ちょっと気まずい。

 照明は適度に暗いが、店内がきれいなのはよくわかる。同じ女装バーでも女装子がママのお店はどこか汚れている。と言っても私が知る限り、東京でも大阪でも、純女じゅんめんがママをやっている女装バーはJぐらいなのだが。

 ママは純女だが、チーママのマリさんは女装子じょそこだ。私は、どちらかというと女装子が苦手で、ママとばかり話をしていた。なので一杯飲んだら適当な口実を作って帰ろうと思って、その適当な口実を考えていた。

 私がウーロンハイを頼むと、マリさんは冷蔵庫からお通しを出してくれた。ポテトサラダだった。

「ありがとー。あたしポテトサラダが大好きなの。自分でも作るよ」

「ふーん。じゃあ、マヨネーズが何か当てて見てよ」

 何でこんなクイズに答えないといけないのか、あたしにはよくわからなかったけど、あまりにも簡単な問題だった。

「キユピーの赤キャップだよね?」

「正解! あんたマヨラーだね?」

「うん。ということはマリさんもだね」

 マリさんはどちらかというと怖い感じの人だったので、こんな人なつこい笑い方をするとは思ってもみなかった。だから前から聞きたかったことを聞いてみた。

「あのね。マリさんのおっぱいってどうしてるの」

 マリさんの胸はたぶんDカップぐらいだと、あたしは目星をつけていたのだった。

「これ? シリコンだよ。ホルモンはやってないの」

 だろうな。ホルモンをやっていたら、もっと女らしく、全体がふっくらしていたはずだ。マリさんはかなり痩せぎすなのに、おっぱいだけ大きい。

 距離が近づいたらとたんに図々しくなる私は、マリさんがおっぱいに80万円かけたことを聞き出したのだった。

 それをきっかけに話が弾んで、あたしは結局始発電車で帰ったのだけど、キユピーの赤キャップとマリさんのおっぱいの話以外は全部忘れてしまった。

 

自分のしたいことと向き合うことで、わたしはしあわせになれたと思っています。わたしの生き方を知って、ちょっとでも癒やされる人がいればいいなあという気持ちで書いています。スキやフォローは本当に励みになりますので、よろしくお願いいたします。