見出し画像

私たちはどこへ行っても

よく晴れた4月の土曜日。新卒の頃から仲の良い同期の友人たちとランチをした。前回会ってから、いつのまにか半年近く経っていた。

2人とも1年ほど前にママになったばかりだから、ベビーカーに乗った娘さんたちも一緒に来てくれた。生まれて数ヶ月の頃に一度会っていたけれど、もう自分の足で歩いていて、「赤ちゃん」ではなく「女の子」になっていた。 そして、私の友人たちはかつての柔らかな可愛さや明るい芯の強さはそのままに、優しくて頼もしいお母さんの顔をしていた。

友人の面影と、結婚式でお会いした旦那さんの面影と。子どもたちを見ていると思わず顔がほころんで、可愛いね、可愛いねと、年に数回しか会えない親戚にでもなったような気分で話しかける。その合間を縫って、大人たちの近況を報告し合う。

「こないだ2班ランチでね」

ふとした話の流れで、友人の1人が言った。

「ええ!まだ続いてるの!?」

「もう10年経つよ!?」

私ともう1人の友人は、驚いて思わず笑ってしまう。

「2班」というのは、新卒研修のグループのことだ。10年前の4月、全体研修を終えて同じ部署に配属された私たちを含む16人は、男女混合の3つのグループに分けられた。ノルマを課せられた営業研修を乗り換え、みんなで泊まりがけで遊びに行くほど仲良くなっていた。そのうちの2班は中でも特に仲が良くて、定期的にランチをしていたのは知っていたけれど、今も続いていたことに驚いた。

「全員揃わないことの方が多いけどね。最低2人揃ったら決行ってことで」

2班の友人は、楽しそうに答えた。

もう1人の友人(3班)と、私(1班)のメンバーも決して仲が悪い訳ではないけれど、みんな部署が変わったり、転職をしたりして何となく疎遠になり、個別に会うことはあっても全員揃うことはほとんどなくなった。それでも、去年の夏には16人全体に声をかけてバーベキューをしているのだから、十分に仲が良い方なのだろう。普段はあまり使われなくなったLINEグループには、時折、転職、結婚、出産など、人生の転機にまつわる知らせが届き、互いに祝福し合うのが習慣になっている。

10年も経てばみんな変わるね、その象徴のような子どもたちに目をやりながら、笑い合う。10年の間、私たちは数多くの選択をした。部署異動、転勤、恋愛、転職、昇進、結婚、妊娠、出産、マンション購入。もちろん転職していない人も、結婚を選んでいない人も、家を買っていない人もいる。同じように新卒時代を過ごした同期でも、選んだ道は様々だ。

「どちらを選んでも幸せなのよ」

新卒の頃とてもお世話になった、女性の上司の言葉を思い出す。英語が堪能で聡明なその人は、ある日、仕事もプライベートも上手くいかず落ち込んだ私をランチに連れて行ってくれ、そう言った。将来は何が起こるかわからない。どの職場にいても、結婚してもしなくても、子どもがいてもいなくても、どちらを選んでも、ちゃんと幸せになれるのだ、と。

私の大好きな友人たちは、可愛い子どもたちと一緒でとても幸せそうだ。でも、もちろん、ママになって初めて味わう、大変なことだってたくさんあるだろう。私はこれから子どもを持つかもしれないし、持たないかもしれない。きっと、どちらを選んでもそれなりに大変なこともあるし、それなりに幸せなのだ。

どの道を選んでも、どこかできちんと幸せになれる。自分の好きな道を選べることもあるし、思いがけない道に背中を押されることもある。途中で不安になって後ろを振り返ったり、傷ついて疲れて、しゃがみこんでしまうことだって何度もある。でも大丈夫。助けを求めることさえできれば、誰かが必ず助けてくれる。自分の選んだ道を、恐る恐る歩き出した10年前の私に、そう伝えたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?