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年金の説明不足 会社退職と年金にならない厚生年金保険料との関係


1、会社を辞めるリスク

前の会社で総務の仕事をしていたとき、退職予定の従業員の方に対して、あらかじめ様々な手続きの説明をする仕事をしていたことがあります。

「退職願はいつまでに提出してください。」
「退職金は〇〇円です。〇月〇日に振り込まれます。」
「会社から貸与されている〇〇を返してください。」
「健康保険証も返却してください。」
「次の就職が未定なら、健康保険は、国保・任意継続・家族の扶養になる、以上3つの方法があります。自分で検討してください。」
「同じく、年金は国民年金に加入が必要です。市役所で手続きをしてださい。」
「離職票は退職後10日ぐらいで郵送します。ハロワに行くとき必要です」
「住民税の未払い分は清算が必要です。」
「これまで給料からとられていた所得税は返金されるかもしれません。退職後に源泉徴収票を送るので、自分で調べて必要なら確定申告をしてください。」
「給料から控除されている生命保険料や自動車保険料について、保険会社に連絡をして、ご自身で手続きしてください。」
などなど・・・

多くの従業員の方が、困惑の表情を浮かべていました。

これまで、いかに会社に庇護されていたかを実感しているようでした。
また、社会保険料など退職後に払わなければならない多額の金額にも驚いていました。

新卒で入社以来、同じ会社にずっといた方が退職するときは、特にそうでした。

「サラリーマン」という響きには、「何者にもなれない、つまらない生き方」というニュアンスが若干含まれているように感じます。

でも、実際には会社に在籍することで、各種制度が自分の生活やお金を守ってくれているのです。

会社を退職すると、それらが一辺になくなります。

厚生年金保険の制度も同様です。

今回は会社を退職することで、これまで払った厚生年金保険料が、無駄になってしまう事例を説明します。

このnoteのタイトルどおり、国の説明不足のため、多くの国民はあまり認識していない事項です。


2、遺族厚生年金の場合

厚生年金保険料を給料から徴収されている人は、厚生年金保険の被保険者です。

遺族厚生年金は被保険者が死亡した場合や、退職後であっても会社在籍中(被保険者のときに)死亡の原因となった傷病の初診日あり、そこから5年のうちに死亡した場合に、残された家族へ年金が支払われる制度です。
(社労士試験の短期要件ですね)

ただし、国民年金・厚生年金合わせて25年以上保険料を納付した人(第3号や保険料免除の期間も含みます)が死亡した場合は、上記に該当しなくても、生存中に納めた厚生年金保険料に応じて、遺族厚生年金は支給されます。
(社労士試験の長期要件ですね)

大雑把にいうと、現在会社に在職している人、もしくは25年以上保険料を納めた人が死亡した場合に年金が支払わる制度です。(例外もありますが・・)

高校卒業後に就職した人は18歳から厚生年金に加入します。
それ以外の方は20歳から国民年金に加入します。

そこから25年後は、40代前半ですね。

つまり、20代・30代の方がサラリーマン時代に多額の厚生年金保険料を納付していても、その後40代前半までに、退職し再就職せず死亡してしまうと、遺族厚生年金は支給されないのです。
(上記の被保険者期間に初診日がある場合は除きます。)

高校生以下のお子さんがいなければ、遺族基礎年金も支給されません。
唯一、国民年金の死亡一時金を受け取れる可能性はありますが、その金額はごく僅かです。
(最大でも32万円程度・・年金ではなく1回ぽっきりです。)

サラリーマン時代に払った厚生年金保険料は、結局年金にはなりません。

「若いうちは次の就職先が決まってから会社を辞めたほうがよい」と言えば少し言い過ぎですが、少なくともこのリスクは知っている必要があると思います。

しかしながら、年金の制度があまりに複雑で、国も国民にきちんと説明をしないので、理解している方はごく僅かと感じます。

3、障害厚生年金の場合

例えば、会社を退職し、自営業を営んでいるときや失業中に何からの病気になり、初めて病院で受診をしたとします。(初診日といいます)

その後、再就職し(厚生年金保険の被保険者となり)、厚生年金保険料を払っていても、上記自営業中・失業中の病気が原因で障害を負ってしまった場合、障害厚生年金は原則支給されません。

障害厚生年金を受給するためには、厚生年金保険の被保険者である期間に、障害の原因となった傷病の初診日があることが条件だからです。

自営業中や失業中の期間、つまり第1号被保険者の期間に初診日がある場合、障害厚生年金は支給されません。
会社を辞める前や再就職後に支払った保険料は、障害厚生年金にはならないです。

私は障害年金の受給申請の手続きや認定基準の実務について知識がありませんので詳細は分からないのですが、問題だと感じる部分は以下のとおりです。

①障害の原因となった傷病の初診日を特定できるのか。
何年も昔の傷病が障害の原因、ということもあり得ると思います。

②特定された初診日の傷病と障害の因果関係は証明できるのか。
医学的な知識はありませんが、人間の体は機械ではないので、初診日の傷病が障害の原因だと、論理的に証明できるケースばかりではないと思います。

③初診日とは過去の出来事である。
元来保険とは将来に備えて保険料を支払うものなのに、障害になる前には認識できない過去のある日が、もし被保険者ではない期間の初診日だったと特定された場合、これから将来に向けて払う保険料は無駄になってしまいます。

③について、条件を満たせば、払った厚生年金保険料は65歳以降の老齢厚生年金や遺族厚生年金にはなりえます。
全く無駄になるとは言い切れません。

しかし、この初診日ルールはたいへん厳しく、また理不尽でもあると感じます。
会社を辞めると、うかうか病院へも行けません。

確かに保険は事故が起こる前に加入するものですが、この厳しいルールは国民にもっと伝えなけらばならないルールだと感じます。

4、老齢厚生年金の場合

老齢厚生年金については、これまで述べてきた遺族厚生年金や障害厚生年金のような、会社を辞めると払った保険料が無駄になる制度はないと思います。

国民年金や厚生年金の保険料を納付した年数が10年以上(保険料免除期間や第3号期間も含む)あれば、払った厚生年金保険料は将来の老齢厚生年金になります。

会社と辞めることとは関連しませんが、気になるのはこの「10年以上」のルールです。

10年以上何らかの保険料を納付するとか、免除の手続きをしないと、払った厚生年金保険料は、老齢厚生年金にはなりません。
保険料はやっぱり無駄になるのです。

ちなみに、10年ルールになったのは2017年です。
それ以前は25年でした。

日本年金機構のご案内です。↓

みなさんはこのルール自体や2017年のルール変更をご存じだったしょうか?

私は10数年前に社労士試験を受けていますが、受験勉強を始める前、このルールは知りませんでした。

「老人になって年金を受け取るには、長年保険料を払わなければならない」
なんとなく、フワっとそんなイメージがあるだけでした。

今も、特に若い方は同様ではないでしょうか。

以上、年金制度は複雑で、知らないと保険料が無駄になってしまうケースがありますので、国はもっと国民に知らせる努力が必要ではという話でした。

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