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外国人の採用ルールは矛盾している。


馬場アントニオさんとの面接

フィクションなんですが、例えば想像してみてください。

あなたが会社の採用担当責任者だったとします。
いま、応募者の方と面接をしています。
履歴書に書いてあるその方のお名前は
「馬場アントニオ」さん。もちろん本名です。

南米の方とのハーフなのか、すごいイケメンです。
でも、明らかに純日本人のお顔立ちではありません。

日本語は全く普通に話します。ネイティブの日本語そのものです。

とても優秀な方なので、採用したいとは思いますが、仮に馬場アントニオさんが日本国籍の方ではない場合、採用にあたり法令上さまざまな確認や手続きが必要です。
怠れば罰則もあります。
国籍が合否に影響しないにしても、あらかじめ把握する必要がありそうです。

この場合、あなたは面接で、
「馬場さん、あなたの国籍を教えてください。」と質問して良いのでしょうか。

2、厚生労働省のダブルスタンダード

厚生労働省は、この問題に対して矛盾した2つのルールを作成しています。
「質問しなければならない」とも読み取れるし、「質問してはいけない」とも読み取れます。

2つのルールとは、
・不法就労を防ぐため、国籍は確認しなければならない。
・就職差別を防ぐため、国籍を確認してはいけない。

3、詳しく見てみましょう。

不法就労を防ぐために外国人の方を採用した際、会社はその方の在留資格を確認し、国に届け出なければなりません。

当然の前提条件として、その労働者が外国籍の方だと分かっていなければ、在留資格の確認のしようはありませんね。

更に、その確認は「あらかじめ」行わなければなりません。

つまり、採用選考時に国籍や在留資格の確認が必要になるのです。
しかも無届けや不法就労者の雇用は、事業主に対する罰則も付いています。

(外国人雇用状況の届出等)
事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合(中略)その者の氏名、在留資格、在留期間、その他厚生労働省令で定める事項について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

職業施策総合推進法 第28条 第1項

採用に当たって、あらかじめ、在留資格上、従事することが認められる者であることを確認することとし、従事することが認められない者については、採用してはならないこと。

厚生労働省発行ガイドブック 令和5年版 外国人雇用はルールを守って適正に 11ページ


ところが同じ厚生労働省から発行されている別の指針によると、就職差別を防ぐため、会社は従業員を採用する際、応募者から出身地などについての質問をしてはいけないことになっています。

(3)採用選考時に配慮すべき事項
次のような適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり、面接で尋ねる(中略)ことは、就職差別につながるおそれがあります。

<本人に責任のない事項の把握>
①本籍・出生地に関すること 
②家族に関すること
③住宅状況に関すること
④生活環境・家庭環境などに関すること      (以下省略)

厚生労働省HP 公正な採用選考の基本 

採用選考にあたり、本人に責任のない事項を聞くことは、応募者に対して、不当に心理的な負担を与えます。

このルールは、だれでも公正な採用選考を受けられるよう明確に基準を定めていて、とても素晴らしいと思います。
本籍・出生地による就職差別なんて決して許されることではありません。

では、国籍を聞くことはどうなのでしょうか?

「本籍・出生地」と「国籍」は若干言葉の意味が違います。
ネットでそのことを調べてみましたが、弁護士の方や社労士の方からの見解として「国籍を聞いてはいけない」・「聞いてよい」と両方の見解がありました。

しかし、いずれの見解も、上記の矛盾する2つのルールをどう解釈したうえでその結論になったのか、その理由は見つけられませんでした。

このルールの精神から判断すればアウトだと私は思います。

このように矛盾した2つルールがある場合、現実の世界の企業採用担当者はどうしたら良いのかわからなくなります。

結果、「在留資格上認められない外国人を採用するリスク」と「面接で聞いてはいけない事項を聞いてしまうリスク」その両方を避けるため、馬場アントニオさんは国籍や在留資格を聞かれることなく、黙って不採用という判断に成りかねません。

このことは、多様な人材の就職機会を奪うことに繋がります。

厚生労働省もおそらくこの矛盾に気づいているようです。

矛盾に対する予防線として、採用選考時の国籍確認は、「通常の注意力をもって」・「氏名や言語によって」外国人かどうかを確認してください、としています。

参考 外国人の雇用に関するQ& A
Q 雇入れの際、氏名や言語などから外国人であるとは判断できず、在留資格などの確認・届出をしなかった場合、どうなりますか。
A 在留資格などの確認は、通常の注意力をもって、雇い入れようとする人が外国人であると判断できる場合に行ってください。氏名や言語によって、その人が外国人であると判断できなかったケースであれば、 確認・届出をしなかったからといって、法違反を問われることにはなりません。

厚生労働省発行ガイドブック 令和5年版 外国人雇用はルールを守って適正に 18ページ

でも「通常の注意力をもって」ってどういことでしょう。

馬場アントニオさんは、名前は外国人風、お顔立ちも外国人風、言語は日本人風です。
通常の注意力をもって判断するルールに基づけば、採用時に国籍の確認は必要だと私は思うのですが、どうなのでしょうか?

4、「通常の注意力」は恣意的すぎる。

スポーツ界で顕著なように、いわゆるハーフの著名人の方々が数多くいらっしゃいます。

ダルビッシュ有さん
サニブラウン・ハキームさん
トラウデン直美さん
大坂なおみさん
ウエンツ瑛士さん
八村塁さん  etc.

お名前は外国風・日本風様々ですし、日本語ネイティヴの方とそうでない方、両方ですね。

一般の方でも、たとえば電車に乗れば、学生さんのような特にお若い方々に同じようなハーフの方を、近年数多くお見かけするように思います。

このような方が企業の採用選考を受ければ、通常の注意力をもっている面接官は「外国の方かな?」と思うでしょう。

しかしここで「あなたは日本人ですか?」という質問は、先ほど説明した公正な採用選考に対する明らかなルール違反です。

未来ある若者に対して、本人に責任のない事項を把握しようとしています。

つまり結局、話はふりだしに戻るのです。

厚生労働省が掲げている「正常な注意力」という恣意的な基準では、なんの意味もありません。

要は優先順位の問題です。
「不法就労の防止」と「公正な採用選考」の比較なら、未来ある若者たちのために「公正な採用選考」が優先です。

不法就労も許されることではありませんが、少なくとも国籍や在留資格の確認は、採用内定の通知後にするよう、そしてその在留資格が企業に合致していなければただちに内定取り消しが可能となるよう、厚生労働省のガイドラインを修正する必要があると思います。

少子高齢化による労務人口減少が進むなか、若者と外国の方がともに能力がきちんと発揮できるよう、政治家や厚生労働省の方々の奮闘に期待します。

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