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説明が足りない日本の年金制度



1、二十歳になったら届く国民年金加入のお知らせ

昨年のことです。
大学生の息子が二十歳になってから数日後、日本年金機構から「国民年金加入のお知らせ」という通知が、本人あてに郵送で届きました。

①二十歳になったので国民年金第1号被保険者になりました。
②国民年金保険料の納付期限は翌月末となりますので・・・
③基礎年金番号とは、ご自身の年金加入記録を管理する番号で・・・
④ねんきんネットを利用すると・・・
⑤基礎年金番号は国民年金・厚生年金保険・共済組合の年金制度で共通して使用する「一人にひとつの番号」です・・・

などと書かれていました。
保険料は月額16,520円です。

それを読んでいた息子に質問をしました。
「国民年金第1号被保険者って意味わかる?」「わかんね!」
「年金の加入記録って意味わかる?」「わかんね!」
「そもそも年金ってどういうものか知ってる?」「・・・」

つい1年くらい前まで高校生だった若者の知識なんてこの程度でしょう。
二十歳になったばかりの若者にこの内容のお手紙を送っても、理解できるわけがありません。

彼らはそもそも日本の年金制度について、きちんとした教育はおろか簡単な説明すら受けていません。
にもかかわらず、日本年金機構はこの国の若者たちに月16,520円もの金額をいきなり請求するのです。

私は息子に年金制度のさわりの部分だけ説明をしました。
・これから老人になるまで、毎月年金保険料を払わなければならないこと
・就職したら厚生年金に加入して、給料から保険料が取られること
・保険料をきちんと払えば、老人になったら毎月国から年金がもらえること
・若い時に障害や死亡した場合も、国から毎月年金がもらえること
・大学生は手続きをすれば、保険料の支払いが免除されること

でも、この説明って親の責任でしなければならないことでしょうか?

日本年金機構からのお手紙に書かれた上記①~⑤の内容について、何書いているか完璧にわかるっていう人、大人でもそう多くはないと思います。

2、なぜ高校で教えないのか?

二十歳になって初めて国民年金に加入しなければならない若者が絶対に知っていなければならないことは、障害基礎年金のことです。

障害基礎年金とは、一定の基準以上の障害を負ってしまった場合、国民年金から一生涯に渡り年金が支払われる制度です。

ただしこれには、保険料納付要件というルールがあります。

障害の原因となる初診日の前日時点で・・
・保険料納付義務のある全月数うち2/3以上の月数納付している
または
・直近一年間のすべての月で保険料を納付している
どちらかを満たしてないと、障害基礎年金が支給されないのです。

仮に二十歳になったとき日本年金機構からのお知らせをスルーして、卒業までの2年間(24か月間)保険料を払わなかった場合・・
・大学在学中の2年数カ月間
・就職して厚生年金加入後少なくとも11か月間

この期間に初診日がある障害になっても、残念ながら障害年金は支払われません。

なので、本来二十歳になって日本年金機構から「国民年金加入のお知らせ」が届いたら、保険料の未納状態を作らないために、すぐに保険料を払うか、
保険料免除制度である「学生納付特例」の手続きをしなければなりません。

このルールは、高校卒業前に日本の全若者に説明すべき事項です。
校長先生の贈る言葉よりはるかに重要です。

いや、それ以前に毎月16,520円も請求するのであれば、日本の年金制度の概要すべてを高校卒業前に説明すべきです。

しかしながら、学校は文部科学省、年金は厚生労働省の管轄なので、誰も動かないのでしょう。

ちなみにこの話は、以前もnoteで書いたことがありますのでご参照ください。

3、過去にも説明不足が・・・

年金制度に対する国の説明不足、国民の知識不足によるトラブルは、2000年代なかごろに第3号被保険者の届出問題でも発生しています。

第3号被保険者とは、厚生年金保険に加入してるサラリーマン(第2号被保険者)に扶養されている配偶者のこと。

第2号被保険者が毎月給料から控除される厚生年金保険料により、配偶者である第3号被保険者も国民年金保険料を納付していると見なされます。
(実際には払っていません・・)

出産や育児を機に会社を辞めて、夫の扶養となった妻が代表例です。

この第3号被保険者として国民年金に加入するためには、厚生労働大臣に届出が必要です。
届出をしなければ、第3号被保険者とは認められないので、国民年金の保険料を納付したとは見なされず、将来受け取れる年金額にたいへんな影響が出ます、

現在その届出は、健康保険被扶養者の手続きと合わせて、夫の会社が行うので、届出漏れはレアです。

しかし、1990年代半ばごろまで、その届出は本人が行うことになっていました。

残念なことに当時、国の第3号被保険者制度について、国民への啓もうが十分ではありませんでした。

結果、「第3号被保険者」なる制度を知らずに未届出、国民年金未加入とされていた専業主婦が数多く発生し、大問題に発展・・

当初国は、届出なかった本人が悪いと知らないふりをしていたのですが、国民やマスコミのあまりの声の大きさに負け、さかのぼっての届出を認めています。

似たような事例は他にもあります。
脱サラをすると夫は第2号被保険者ではなくなると同時に、専業主婦の妻は第3号被保険者ではなくなります。
夫婦ともに第1号被保険者として、それぞれ毎月国民年金保険料を納付する必要があります。
ところが、いままで第3号被保険者として保険料を払っていなかった妻には、夫の脱サラを機に保険料を払わなければならなくなったという認識がそもそもありません。

そのため第3号から第1号になった届出をしないまま、保険料未納期間が長期間にわたる専業主婦が数多くいることが発覚しました。
問題となったのは、2010年代初めのころだったと思います。

こちらも、根本原因は厚生労働省の国民に対する説明不足です。
(年金記録を管理してる加入者のデータベースやシステムもお粗末ですね・・)

とにかくこの国の年金制度は、国民一人ひとりにとって重要なものであるはずなのに、知らないことが多すぎるのです。

国が多く年金を払いたくないので、わざと分かりづらくしている・・
という人がいます。

私はそのような陰謀論的な話はあまり信じてはいません。
陰謀を謀れるほど行政が有能だとも思えません。

年金の仕組み自体の建付けが悪く、管理システムも古いので、どう説明したらよいのか分からないというのが実情なのでしょう。

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