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諸事 3/21


 ここ最近、激動だった。
 何が激動だったかはプライバシー的な観点から詳細に話すことはできないが、週の半ばを過ぎた時点で一ヶ月分ぐらいの激動の日々を送っている。感情の上下は激しく、高天原に上り詰めたと思ったら地獄に突き落とされるような非常に乱れた感情を抱いて生活している。人間とはこうも他者に流され、影響され、そしてひどく緩い生き物なのだということを強く実感している。

 何個かあるうちの一件の詳細を明かすとすれば、自分が好きなバンドの中心メンバーが脱退したことだ。スリーピースバンド・リーガルリリーのDrゆきやまが10年間のリーガルリリーとしての活動に終止符を打ったのである。

 スリーピースバンドなので誰がいなくなっても大問題なのだが、ゆきやまは結成当初から在籍し、フロントマンのたかはしほのかを支える柱としての役割も担っていた。ドラムの技術・センスもさることながら、ファンに愛される明るい性格でもあった。  
 スリーピースというのは個々の卓越した技術がより求められる。しかも、彼女らはサポートメンバーを一切加えず、ほぼギター・ベース・ドラムの三種の神器で戦ってきているバンドなので、より一人一人の高い技術が望まれる。
 そのなかでも、ゆきやまのハイセンスなドラム技術は、言いようがないほど美しい。うまく言語化できなくて申し訳ないが、ほんとうにすごい。読んでいる方に僕の熱意だけは伝わることを信じている。気になった人は、アルバムを聴いてみてもらえれば、言わんとしていることが分かると思う。聴き終わった後に、「これで三人だけでやってるの?」との疑問が浮かぶはずだ。おススメは『東京』という曲。↓


 ゆきやまが脱退し、gt.voたかはしとbaの海だけになり、drはさて誰なのか? 新しくメンバーを加入させるのか、サポートメンバーで回すのか? といったところが直近で気になるところだが、他のバンドとの比較でどうしてもこれだけは言っておきたいものがある。

 これは彼女らの世界観を否定するものではないし、他の音楽家と比べるのも大変おこがましいことなのだが、やはり女性のフロントマンかつスリーピースとなると彼女たちと比べてどうなのかというのが野暮にも気になってしまう。


 羊文学はとにかく売れた。
「ああ、売れるってこういうことなんだな」ということを僕にはじめて理解させてくれたバンドだ。『1999』の印象から『光るとき』で大衆に認知させ、『more than words』で爆発的に伸びた。
 めざましテレビとかいう流行に臣従したような番組で取り上げられているのを目に入ってしまったのも、世間で一定数以上の賞賛が得られているという根拠になるだろう。
 リーガルリリーと羊文学は切っても切れない関係性で、音楽界隈的にはどちらも2010年代後半の女性スリーピースのシーンを引っ張ってきた存在だと位置づけられている。対バンでの関わり合いがあったり、羊文学のドラムがもともとリーガルリリーのサポートメンバーだったなど、お互いに知らない仲ではない。
 あと若い女性ボーカルのロックバンドというのは一定数需要があるのか、共通してファンだという人が多いようなイメージがある。お互いに曲や音楽性が似ているわけではないが、チャットモンチーや相対性理論の流れから彼女らに行きついた音楽ファンも存在するのだろうとは個人的に考えている。

 そんな意識せずともお互いに関わり合いがある二つのバンドだったが、先に羊文学が世間からの人気を得ることになった。果たして、それをリーガルリリーの面々はどのような面持ちで見ていたのか? 
 そこは僕には分からないので、外部からとやかく言えることではない。そしてこの発言をたぶん正しいのだと思って発するのだが、そもそも彼女らは『売れるため』の音楽をしていないのではないか。

 リーガルリリーは、大衆に媚びた音楽をしない。たかはしほのか創り出す世界観は唯一無二で、我々ファンはそこに酔いしれ、痺れ、強いロックの醍醐味を感じる。その反面、世間に広く親しまれるかといえばはっきりと頷くことはできない。かつての『リッケンバッカー』に見た衝撃は、二度三度は起こらないだろう。最近、彼女らは『17』という新曲を出し、17歳での結成から十周年を記念していたが、いまだ『リッケンバッカー』を引きずっているような印象を僕は感じた。

 売れるために世界観を大衆側に寄せるのか、世界観を維持したまま大衆が追い付くのを待つのか。ゆきやま脱退したこのタイミングで、リーガルリリーというバンドを考えるのに切り離しては考えられない問題を、僕はここで提起しておきたい。でも、ただ僕らは待つだけだ。彼女らがどのような音楽の方向性を定め、どのように歩んでくのかをただ待つしかない。
 そして、僕はどのような道に進もうとも、リーガルリリーをひたすらに布教することに変わりはないだろう。もちろん、望みが叶うのならば、ゆきやまの叩くスネアやハイハットの音もまだ追いかけていきたいと思っている。


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