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やっと適職を見つけたと思ったのに続けられなかった話

新卒で入社した会社は求人広告を扱っていて、誌面のレイアウトをさせてくれるという話だった。
とはいえ私はデザインを専門で学んでいたわけではないし、まずは営業もやってみて、その間に誌面のレイアウトの仕方を学んでみようという流れになった。

「まずは営業」というのがいわゆるコミュ障の苦手な私には苦痛だった。
小さな会社で人間関係が濃そうなのも辛かった。
おまけに会社の業績も怪しくて、結局3ヶ月で辞めてしまった。

その後学習塾のバイトを始めた。
事務で入ったが教育学部の出身なので授業も持った。
これもうまくいかず、ほぼクビ。

そのあとは内職をして過ごした。
内職ではあるけど検査場に行ったら時給80円もらえた。
その検査場で、一個何銭の製品検査をする。
何かの部品であることは確かだが、何の部品かはわからない。
これは喋らなくていいので助かった。
問題は、喋らなすぎて眠くなることくらい。

ただこの内職も景気の良し悪しのようなことに左右されて、検査場が閉鎖になった。

そこで私は運命的にある求人を見つけた。
「テープ起こし」の会社のパート募集。
前々からスピーチやインタビューの録音を聞いて文字に書き起こすという仕事には興味があった。
新聞や雑誌にはしょっちゅう「テープ起こし講座」の広告が出ていたし「在宅で働ける」という謳い文句が魅力的だったし、私は「言葉」が好きだった。
言葉を扱う仕事ができるなら本望だ。

求人に応募して、ペーパーテストと面談を受けて合格。
その後になって、箪笥の引き出しからその会社が何年か前に出した求人の切り抜きが出てきたときは感慨に浸ってしまった。
そんなに前からこの会社に入りたかったのかと。

テープ起こしの仕事は聞こえてきた言葉を文字に書き取っていくものではあるが、聞こえたままに書けば良いというものでもない。
日本語は同音異字語が多いので意味にあった字を選ぶ必要があるし、「モッテイク」と聞こえたときに「持って行く」なのか「持っていく」なのかという判断も要求される。
表記の基準となる用字用語事典が支給されているので、一語一語首っ引きで確認する。
普段耳にしない専門用語も聞こえてくるから、わからない言葉が出てきたら、フロア内にある本棚でその分野の言葉が載ってそうな本を探したり。
地名などは間違えてはいけない。これも確認に行く。
もっとも本棚までの何十歩が座りっぱなしを防いでもくれた。

仕事は思った以上に負荷がかかり、食べたものの味がわからないほど疲労することもあったし、録音の内容に引きずられてメンタルが落ち込むこともあったけど、自分には向いていると感じていた。
会社の人たちはいい意味でドライで、ベタベタするわけでもなくケンカするわけでもなかったので過ごしやすかった。

2年ほど勤めたときの面談で、会社が勤務時間を延ばす話を出してくれた。
願ってもない話だったのだが受けることはできなかった。

結婚して遠方に引っ越すことが決まっていたから。
会社に採用された時には影も形もなかったことで、出会いから結婚に至るまでのスピード感には自分でも驚いた。
上司も面食らっていた。

それでも、ここで上司は在宅で仕事ができるようにと取り計らってくれた。
当時はまだネットがさほど高速大容量ではなかったので、宅配便でテープや出来上がった文字起こし原稿のやり取りをする予定だった。

結婚して夫の家に移り、慣れない環境や家事に戸惑っているうちに妊娠が発覚。
そうこうしているうちに在宅での仕事の話は有耶無耶になってしまった。
産後はうつ病を発症して、ずっと寝ていた。

娘が生まれて10年くらい経った頃だったか、クラウドソーシングのサイトに登録する気力が出てきた。
もうカセットテープを使わないケースの方が多いから単に「文字起こし」と呼ぶけど、文字起こしの仕事がしたかったがライバルが多くて受注できず。

ぽつぽつとWEBライティングの仕事を始めて、今に至る。
それも体調次第なので、よく言われる「月収5万」なんて全然届かない。

文字起こしはAIが高速で処理するようになって、人間が一から起こす必要が減ってきているから、実績のない人間が受注するのはますます難しくなっているんじゃないだろうか。

でも、やっぱり今でも「文字起こし、やりたいな〜」と思ったりしている。


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