蕎麦屋の新人くん

Hot Music School 年末最後のレッスンへ自転車で向かう途中、人形町のいつもの立ち食い蕎麦。

店内は、けっこう混んでいたけれど、チケットを買う前から顔馴染みの店主が「こんにちは。いつものやつですね?」と言って迎えてくれる。
ここ数年のお気に入りで、僕が知る限りこの界隈では一番美味しい。

天玉蕎麦はバランスが大事。蕎麦、汁、てんぷら、温泉卵、どれかひとつが駄目だったり、極端に主張しすぎると、途端に美味しくなくなる。ここは、蕎麦も美味しいし、汁もていねいに出汁を取っている。天麩羅はいつも揚げたてのものがカウンターに並び、好きな具材を選ばせてくれる。全てのパーツが、立ち食いレベルを少し上回ってバランスがとれているのです。本当に美味しい。

そしてなんと言っても立ち食い蕎麦は、手際の良さが命。カウンターで待っている間、店主が蕎麦を作るその全てが見えちゃうわけだから。

大鍋に蕎麦を放つ仕草。合間にネギを刻んだり、天麩羅を揚げたり。茹で上がった蕎麦を冷水の入ったボウルで一度しめて、右手はざるに戻した蕎麦を大鍋で温め、左手はその横でどんぶりをお湯で温める。しっかり湯切りしてどんぶりに放ち、汁を注ぐ。温泉卵を割り入れて、ネギを盛り、天応らをのせる。この一連の作業が流れるように行くと気持ち良い。そして、美味しくいただけるというもの。

なのだけど、、、
どうやら新人のアルバイトを雇ったらしい。この男の子、まだ入って2〜3日かな、恐ろしく手際が悪い。それで回転が悪く、カウンターのお客さんが捌ききれてない感じ。

でも、ここの店主は、辛抱強い。次に出すメニューを「てんぷら蕎麦ね」「つぎ、春菊天で大盛り」などと指示するだけで、自分は仕込みに専念し、彼に任せている。ちょっとヒヤヒヤしながら観ていると、この新人くんも今時のマニュアルくんではない。手際は悪いものの、自分なりに手順を考えてギリギリのところで任された仕事をこなしている。

いつもより長く待たされて、そのせいで混んできたカウンターを詰めて新しい客を迎え入れ、肩を寄せ合いながら常連さん達も辛抱強く待っている。

皆の期待を一身に背負い蕎麦を茹でる新人くん。どんどん入る注文。大鍋の蕎麦をあげて、冷水の入った大きなボウルへ。茹でるのが追いつかないから、そこで新たな蕎麦を大鍋へ。次は、てんぷら蕎麦。後ろの棚からどんぶりをとり、一人前を目分量で量りながらボウルからどんぶりへ。そしてその蕎麦を小さなざるで温め、横で温めたどんぶりに。そして汁を入れて、店主に指示された具材を乗せる。
おっと、タイマーが鳴っている。大鍋の蕎麦が茹で上がった合図。それをあげるも、まだボウルに前の蕎麦がしめられたまま。新人くん、片手で大きなざるを支持したまま、もう一方の手で、ボウルの中の蕎麦をどんぶりに移す。空になったボウルに茹で上がった蕎麦を。そして、次の注文は・・・

目の前に展開されるスペクタクルに常連一同が固唾をのんで見守っている。

良い店です。

蕎麦も、さすが店主の仕込みがちゃんとしているので、美味しかったですよ。お客さんも含めたこの店の暖かい空気が、なによりの調味料。

ご馳走様。多分年内にもう一回くらい来ます。

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