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パワハラ加害者にふさわしい懲戒処分とは【氷見市事件・最小3令和4年6月14日判決・労働経済判例速報2496号3頁】

近年、パワハラ加害者に対する懲戒処分のあり方で難しい判断を求められる事例が増えています。

例えば、近時では以下のような報道がありました。

この事件では、地裁で処分有効→高等裁判所で懲戒処分の一部違法・取消判決→最高裁で破棄差戻という紆余曲折をたどりました。

パワハラ加害者への懲戒処分については、

  • 労働契約法15条などが定める懲戒の厳しい要件を満たさなければならない

  • さりとて、厳正処分をしなければ職場環境が悪化する

という困難な問題を両立させなければなりません。
それでは、最高裁はどのような点を重視して懲戒処分の一部違法・取消を認めた高裁を覆したのか。

今回は、氷見市事件(最小3令和4年6月14日判決・労働経済判例速報2496号3頁)の最高裁判決からそのような点について意見を述べてまいります。

事案の概要

本件は、氷見市の消防職員であった原告が、原告の上司や部下に対する暴行を理由とし停職2か月の懲戒処分(第1処分)を受け、さらに、その停職期間中に当該暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由として停職6か月の懲戒処分(第2処分)を受けたため、それらの処分の取消などを求めたという事例です。
高等裁判所は第1処分を適法としつつ、第2処分は違法であり取り消されるべきものと判断しました。
これに対し、最高裁は高裁の判決を破棄して改めて審理を差し戻しました。

本件の事実関係

高裁までで確定している事実関係は以下のとおりです。

第1処分までの事実経過

  • 平成2年4月、原告、消防職員として採用される

  • 平成23年7月22日、原告、消防長P7に対して「お前みたいなやつ、早く消防長辞めてしまえ」と怒鳴る

  • 平成25年5月または6月、原告、上司であるP2に対し「お前、上の者のところへ行って俺の悪口を言っとるやろう」と一方的に怒鳴り、胸ぐらをつかんで壁に押しつける

  • 平成25年6月10日、原告、救助訓練の準備中に部下であるP3を注意した際、P3がふてくされた態度をとったことを理由にP3を蹴ろうとした。P3はこれをよけようとしたが、原告の足が左手と当たり、その小指が腫れた。

  • 平成26年1月、原告、P1に対し「何や、お前その手は、反抗的やの」などと威圧的に述べて平手で殴打。P1は、原告の暴言・暴行が一因となってPTSDを発症した

  • 平成28年3月、原告、消防長P8に対し「お前みたいなやつ、早く辞めてしまえ」と怒鳴る

  • 平成28年10月、原告、上司P5に対し、大声で一方的に怒鳴りつけて詰め寄る。P4は原告とP5をつれて別室に移動するが、原告は10分にわたってP4とP5に「バカ」、「アホ」と怒鳴る

  • 平成29年2月27日、原告、これらの行為につき停職2か月の懲戒処分(第1処分)を受ける。

第2処分までの事実経過

  • 平成29年3月6日、原告、P4への暴言などを知っていたP6に対して、「P6が第1処分に係る調査時に原告を裏切るような行為をしたのであれば許さない」などと述べる

  • 平成29年3月3日から23日、原告、P3に対して、自分への処分をより軽くする目的で面会する約束をする。その後、原告はP3に対して「この不服に邪魔が入りもしうまくいかなかったら辞表出して(中略)消防長とP1を刑事告訴する それに荷担したものも含むつもり リークしたものも同罪やろ」と記載したメールを送るなどする

  • 平成29年4月27日、第1処分後の原告の行為について停職6か月の懲戒処分(第2処分)を受ける

高裁の評価

高裁は、次のような点を重視して第2処分を重すぎて違法であるとしました。

  • 第2処分の対象となる原告の行為はそれなりに悪質であり、第2処分にも反省していないとみられるが、反社会的な違法行為とまで評価することが困難なものである以上、第1処分の対象となった暴行等とは異なる面があり、同種の行為が反復される危険性等を過度に重視することは相当ではない。

  • 第2処分は第1処分の停職期間を大きく上回り、かつ、停職の中で最長の期間である。このような停職処分は重きに失する

最高裁の判断

これに対し、最高裁は以下の理由で高裁の判断は是認できないとしました。

  • 公務員への懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となる

  • 原告のP6への働きかけは、原告がそれまで上司や部下に対する暴行・暴言を繰り返していたことを背景として、P6の弱みを指摘した上で、P6に何らかの報復があることを示唆するものであり、P6を不安に陥れ、困惑させるものと評価できる

  • 原告のP3への働きかけは、同人が部下であり暴行の被害者の立場にあったことを背景として、第1処分に対する審査請求手続を有利に進めることを目的として面会を求め、これを断ったP3にたいし、告訴をするなどの報復があることを示唆することにより、同人を威迫するとともに、同人を不安に陥れ、困惑させるものと評価できる

  • これらの原告の働きかけは、いずれも懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害する行為というほかなく、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより、その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない

  • 原告の働きかけは、上司及び部下に対する暴行等を背景としたものとして、第1処分の対象となった非違行為と同質性がある

  • 原告の働きかけは、第1処分の停職中にされたものであり、原告は自らの非違行為について何ら反省していないことがうかがわれる。そのため、原告が同様の行為を反復する危険があると評価することも不合理とはいえない

  • 以上から、第2処分につき停職6か月という判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会通念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえない

判決に対するコメント

結論としては最高裁の賛成ですが、高裁の判断も全くあり得ないものでもないと感じました。

今回の事件において、高裁が第2処分における停職6か月の懲戒処分を違法とした際に重要視した要素は

①対象の非違行為が暴行・暴言ではなかったこと
②第2処分自体を反社会的な違法行為とまでは評価できないこと
③第1処分よりも第2処分の方が遙かに重いのはバランスを欠く
ということにあったと読めます。

これに対し、高裁の示した①と③についてはそれなりに理由があったと考えます。

というのも、今回原告が行った行為を第1処分と第2処分で分けた場合、前者は上司や部下に対する多数回の暴行・暴言があったにもかかわらず停職2か月で、後者は暴行・暴言がないにもかかわらず停職6か月というのは、ややバランスを欠いていると見えなくもないからです。

もし懲戒権者において原告の暴行・暴言を重大視していたというのであれば、その時点で停職2か月よりも重い懲戒処分を下すべきであったのに、それをせずに暴行・暴言自体ではない第2処分で重い懲戒処分を下すというのは、論者によっては第1処分の二重処罰と考えられなくもありません。

とはいえ、私としては、結論と理由ともに最高裁の判断の方がしっくりきました。

その理由ですが、まず第2処分の行為についても第1処分の対象となった暴行・暴言に匹敵する反社会性・危険性があると考えるからです。

この点、高裁は第2処分の対象となった「働きかけ」につき反社会性があるとまではいえないとしています。

しかしながら、この「働きかけ」については、原告が、粗暴な態度で相手を威圧していたという関係性に加え、相手の弱みまで突いて審査請求に際し自己に有利な言動を獲得していた(少なくともそのように受け取られる行動をとっていた)という点で、強要罪(刑法223条)または脅迫罪(刑法222条)が成立しうる反社会性・危険性があったと評価すべきと考えます。

また、第1処分と第2処分の処分の重さがバランスを欠くという点も、第1処分がされた時点ではさらに原告が非違行為に及ぶか否かは不明確であったことからすれば、原告に対する反省を期待を込めて比較的軽めのものに止めるという判断にも合理性があったと考えます。

それにもかかわらず、原告は、粗暴な言動に対する停職の懲戒処分中にもかかわらず、その処分を軽くするよう関係者に働きかけるという行動自体に、自らの行為のもつ加害性に対する無自覚や無反省が見られます。

そのため、最高裁が、暴力・暴言を背景に無自覚に行われた「働きかけ」に対し、第1処分と同程度の危険性・悪質性を認めたことには十分な理由があったと考えます。

以上から、私としては、今回のケースでは最高裁の判断と理由は妥当であると感じました。

最後に

以上、氷見市事件を取り上げました。

先にも述べましたが、今回の事件で裁判所ごとに判断が分かれた理由のひとつに暴行・暴言を原因とする第1処分と暴行・暴言自体ではない第2処分の重さのバランスが悪いというものがあります。

後知恵になはっていましますが、今回の事例では、原告は暴力・暴言の行為自体が非常に悪質なものであることからして、第1処分の時点でより重い懲戒処分を選択しても良かったように感じます。

これまでは、そのような行為に対しても「反省」や「将来性」を期待して軽めの処分が選択されていたのかもしれません。
しかしながら、職場内の暴力やハラスメントは、被害者はもとより、それを見聞する周囲の人たちに対しても大きな精神的・心理的なダメージを与えるものです。

そのような負の影響の大きさを踏まえると、今日ではそのような行為に対しては毅然とした処分を下す必要があると考えます。

今回の判決を基礎に、ハラスメントに対する処分のあり方を多くの人が考えていく必要があると感じた次第でした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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