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『SIX HACK』の何が伝説になるのか?

2023年5月18日。テレビ東京にて放送された『SIX HACK』第1回は、その鮮烈なブラックユーモアと不気味さから大きな話題を呼んだ。そして第3回まで放送した翌週、本来なら第4回が放送されるべきタイミングで突然の放送休止が番組側より宣告される。翌週の6月16日、TV放送は引き続き休止となったが、第4回に代わるYouTubeとテレビ局HPの動画配信を最後に、番組は終了となった。


この放送休止の流れにより、『SIX HACK』については番組の裏側についての"打ち切り説"、"クレーム説"、"TV局側からの企画取り下げ説"などの様々な憶測が飛び交うこととなった。

実際は上記の動画全4回で終了というのが公式見解である。番組側は「全6回にわたってお届けします」と宣言していたが、それが上記の憶測いずれかの要因なのか、それとも当初から「全6回と称しながら実は全4回である」というブラフだったのか―真実は定かではない。


演出・プロデューサーを務めるのは大森時生氏。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『このテープもってないですか?』などのテレ東不気味なモキュメンタリー枠を既に何本か手掛けているプロデューサーだ。名前を挙げた2本についてもかなり話題性があったため、TV史に残りそうな秀逸なモキュメンタリー風の番組は彼の得意とする分野であろう。

そして『SIX HACK』についても、この放送休止騒動含め、かなりの波紋が広がっていた。何故、『SIX HACK』はここまで話題を呼んだのか? そして、この番組の一体何が伝説となり得るのだろうか―。


伝説かも1:表現

深夜、TVのチャンネルを何気なく回していると、著名人が出演して何やらタメになりそうな情報を披露している番組があったら、アナタは見てみたいと思うだろうか。眠れない夜に出会ったのなら、そこでリモコンのボタンを押す手を止めてしまうかもしれない。

しかし、実際にそこで語られるのは自己破壊的なライフハック。そんなことを実践しようものなら、会社をクビになっても文句は言えないレベルの究極の屁理屈である。それをいかにもそれっぽい番組セットで、しかもかなりの著名人が真顔で語りだすものだから、テレ東が本気でヤバい番組を流していると信じてしまう人がいてもおかしくない。「こんなのを地上波で流していいの?」と多くの人が感じる表現が多々見受けられるが、理解さえしてしまえばそれらはブラックユーモアに変わるのだ。

番組の構成はこれだけではない。

番組が終了したと思われたその後。終盤は数分間に渡り、かなり精神に負担をかけそうな映像が流れる。とにかく不気味で気分が悪くなるような、敢えてそのような表現を混ぜ込んだ強烈な意味不明の映像だ。

こういったホラーにも等しい表現を何の脈絡もなく地上波で流すことは最早ご法度にも近いレベルだが、『SIX HACK』はそれを堂々とやってのけた(ただしこれが要因で放送休止になった線は消せない)。


伝説かも2:構成

変な(ヤバい)ライフハックを敢えて大真面目に語る」のが『SIX HACK』なのだと、放送当初はそのような認識が視聴者にはあった。実際、それが制作側の狙いで間違いはないと思う。

しかし、休止した第4回に代わる最後の動画”SIX HACK 検証”を観た視聴者は、その構成すら入れ子構造であることを知らされた。

始めから現在と全く同じ形で締めくくるつもりではなかったらしい(構成作家のダ・ヴィンチ・恐山氏談)。しかし、概ね最初のプロットからは変更はなかったということでもあるらしく、つまりは"SIX HACK 検証"については、放送休止アクシデントに合わせて多少の変更はあれど、それすら本来の筋書きに沿うような形で演出するように手を入れたのではないだろうか(あくまで私の推測!)。また、TV放送版と動画版では若干の変更も見受けられ、リアルタイムで観測している視聴者にとっては自らも番組の企画に取り込まれたような体験を得たのだ。


伝説かも3:上記すべてが一つの現象として語られた

ネット上の番組内容についての考察から始まり、第3回を経てその番組の様子の加速した異様さにさらに考察が深まった。

そしてあまりにも急な番組表の変更。これすら演出だと疑い、わざわざ差し替え番組を観る者すら現れた。

ラストはTVでは放送ならず、代わりに全てのアンサーのふりをした動画が最終回として配信。


これら全てが此度の『SIX HACK』は伝説となるための理由に他ならない。恐らく、放送休止がなかったとしても語り継がれるような素晴らしい作品であったと思うが、あまりにも唐突過ぎる休止事件が相まって、恐らく番組側も予想しなかった影響が視聴者に広がったのだろう。

TVは非常に難しく、大抵のことは許されてしまうYouTubeとは大きく放送倫理が異なっている。出ている情報以上のことは私からは語れないが、それでもなお、最後の動画をあのような形で配信し、しっかりとしたエンディングを飾ってくれたことには視聴者としては感謝しかない。


賛否両論あれど、それこそがTV、そしてコンテンツの形でもあると思う。SNS上の議論や目の前で起きていることに惑わされず、どのようにしてコンテンツと向き合うべきか。
ある意味、そんなハックを教えてもらったようなものである。

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