現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その69)

 普通の戸口ではきまりが悪いからと、母屋《もや》の御簾《みす》を下ろし、東宮《とうぐう》のいる御前《ごぜん》に関白は通された。皇后宮《こうごうのみや》の言葉を伝えられている間も、遠からず気配を感じたが、息も絶え絶えでひどく苦しげな様を初めて知った心中は、「火や水に飛び込むよりも苦しい」と表現するのも愚かしいほどであった。「東宮が見ているので、みっともない姿は見せられない」と自制したものの、直衣《のうし》の袖を顔から離すことができなかった。
(続く)

 関白は皇后のいる部屋に通されましたが、御簾越しの気配は明らかに虫の息で、動揺を隠したままむせび泣きします。
 なお、文中には明記されていませんが、前回(その68)の口上を読む限り、皇后は顔を合わせるつもりがなかったようですので、関白が無理に面会を頼んだに違いありません。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


※Amazonで現代語訳版「とりかへばや物語」を発売中です。