現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その45)

 やがて夕食の時間になり、帝が退出すると二宮《にのみや》たちも一緒に出て行ったため、宮の宣旨《せんじ》はようやく手紙を取り出して皇后宮《こうごうのみや》に渡すことができた。
 手紙がひどく分厚いことに胸騒ぎしながら開けてみると、以前から権中納言が姫君に言い寄っていることをはじめ、昨夜の二宮の痛ましい振る舞いまで事細かに記されている。読み終えた皇后宮は動悸《どうき》が激しくなり、非常にまずいことになったと困惑した。
「二人があんな山奥にまで足を運んでいるとは思いも寄らなかった。何とかして姫君を別の場所に移さなければならないものの、急なことでどうしたものか」
 思い悩んでいるうちに気分が悪くなり、苦しくなって横になった。
(続く)

 尼君からの手紙を読んだ皇后は、姫君が二人の兄から言い寄られて近親相姦の危機にあることを知り、ショックを受けて寝込んでしまいます。

 ところで今回の何気ない場面にも、ちょっとした喜劇――すれ違いが発生していたのにお気づきになりましたか。
 尼君は、二宮が姫君の兄なのは知っていますが、権中納言も異母兄であることまでは知りません。今まで黙っていたのに、このタイミングでわざわざ権中納言について触れたのは、「二宮を諦めさせるために、姫君と権中納言を結婚させたらどうか」というアドバイスだったと思われます。
 しかし、言うまでもなく皇后にしてみればとんでもないことで、悩みの種が単純に倍になっただけです。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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