現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その65)

 世の人々は、「権中納言の病は、女四宮との結婚から逃れたいという気持ちの表れなのだろう」と陰で噂《うわさ》し合い、いつの間にか耳目を集めるようになってしまったため、関白は「とても困ったことになった」と嘆いた。
 一方、中宮は今回の件をひどく不愉快に思った。
「どうあっても、このままで済ますわけにはいかない。世間体も悪いではないか」
 中宮は状況確認の使者をひっきりなしに関白邸に遣わした。
 こうなってくると権中納言は屋敷の人々に目撃されるのが恐ろしく、女三宮のことを夢にも見ないように自制した。その代わり、尽きぬ思いを手紙に書き尽くしたのは想像に難くない。

  消えかへり耐《た》へぬ思ひに沈《しづ》むとて
  身の世語《がた》りになるぬべきかな
 (死ぬほどに思い詰めて思い沈むわたしは、世間の語り草になってしまいそうです)

 しかし、女三宮は返事をするつもりがまったくないので、中納言の君はいつも泣きながら訴えた。
(続く)

 仮病を使い続ける権中納言。嘆き悲しむ両親。どうなっているのかと責め立てる中宮。面白がって騒ぎ立てる人々。逢瀬もままならず、いくら手紙を送っても返事をしてくれない女三宮。
 一向に状況が変わりそうにありません。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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