現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その58)

 次第に明けゆく空が厭《いと》わしく、ひっそりと三条宮を後にした。だが、屋敷に戻って横になっても名残が尽きず、まどろむこともできなかった。
「今となっては、ただ何もかもが甲斐《かい》がない。不本意な女四宮との結婚に従わなければいけない我が身が悲しくてならず、この苦しい思いを慰める術《すべ》はないが、だからといって道理に反したことはできない。仮に密通以上の過ちを犯しても、破滅するような身分ではないとはいうものの、今上《きんじょう》が決めたことに背いたらきっと心外に思われるだろう」
(続く)

 屋敷に帰った権中納言は、昨夜の夢のような出来事を振り返りながらも、これ以上は踏み込めない自分の立場を省みます。
 父・関白と皇后宮との事情とは異なり、恐らく今ならまだ女三宮と結婚することも可能のはずですが、本人はその気がまったくないようです。
 どういった理由なのかについては、この後で詳細に語られます。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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