現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その7)

 女三宮はいくら逢瀬《おうせ》を重ねても相手の心が薄情で、疎ましく感じていた。一言の返事もせず、いつものようにつれない態度を取る女三宮に対し、権中納言はこれまで深く自制してきた心を失い、泣く泣く恨み言を訴えた。その熱心な様を見れば岩や木もなびきそうなほどだったが、女三宮は奥州《おうしゅう》の夷《えびす》のように無関心を装い続け、まったく甲斐《かい》がなかった。
「あなたと関わらなければ、このようにひどく気分が悪くなることもなかったでしょう」
 ようやく聞くことができたその一言に権中納言は再び正気を失い、この上なく苦悩した。
(続く)

 権中納言は念願の女三宮との逢瀬がかないましたが、一方の女三宮は少しも心を開こうとはしません。
 相手のことをまったく思いやらず、ただひたすら自己中心的に振る舞う権中納言は「悪しき好き者(性欲モンスター)」の典型で、初登場時の爽やかな面影はもうほとんど残っていません。
 見方を変えると、女三宮の持つ「魔性の血」がそれだけ強力で、好青年を狂わせてしまうほどの力があるとも言えますが、ほぼ同じ状況にあった関白が故皇后のために裏でフォローし続けたのとは明らかに対照的です。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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