現代語訳「閑吟集」(13)

【 原文 】
年々《としどし》に人こそ旧《ふ》りてなき世なれ 色も香《か》も変はらぬ宿の花ざかり 変はらぬ宿の花ざかり 誰《たれ》見はやさんとばかりに まためぐりきて小車《をぐるま》の われと憂《う》き世に有明《ありあけ》の 尽きぬや恨みなるらむ よしそれとても春の夜の 夢のうちなる夢なれや 夢のうちなる夢なれや (13)

【 現代語訳 】
年を重ねるごとに人は老い、最後には亡くなる世ではあるが、屋敷の梅の花は色も香りも変わらずに見事に咲いている。何一つ変わらぬまま、美しく咲き誇っている。いつか誰かがこの花を見て喜んでくれるかもしれないと思っているうちに、また新たな年が小車《おぐるま》のように巡り、このつらい世で生き永らえているのが恨めしい。――そう、これは春の夜に見る夢の中の夢のようなものだ。夢の中の夢のように儚《はかな》いものなのだ。


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