現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その20)

 外聞が悪いほどに取り乱していた関白は、都に戻って来た弁《べん》の君をまるで天から降りてきた天女のように思った。人のいない場所に呼ぶと、生前の皇后宮《こうごうのみや》の様子や口にしていた何気ない言葉まで聞き出し、今にも声を上げかねないほどに涙を流した。
 かつて、些細《ささい》な言葉にもまるで反応しなかった皇后宮の心をこの上なくつれなく思っていたが、実は自分の思いが伝わっていたことを知った関白は過ぎ去った昔を振り返り、「どうして行動に移さなかったのか」と人が怪しむほどに悔やんだ。
(続く)

 弁の君から生前の皇后の様子を聞き出した関白は、宮の宣旨《せんじ》が教えてくれなかった事実に愕然とし、強引に皇后を奪わなかったことを後悔します。
 前回、宮の宣旨がわざわざ口止めをしていたことからも分かるように、この弁の君はおしゃべりな性格のようです。関白もそれを知っていて、わざわざ呼んで聞き出したものと思われます。
(ちなみに、王朝物語で女房たちから秘密が漏れるのはよくある展開です)

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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