現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その2)

 しかし、女四宮《おんなよんのみや》を世間並みに扱ったり軽んじたりすれば、「世の笑い種《ぐさ》になるのは困る」といつも神経を尖らせている中宮《ちゅうぐう》が許すはずがない。何も告げぬまま姿を消した音羽山の姫君と同じように、女三宮もつれないとはいうものの、もし中宮に彼女を慕っていることが知られたら、二人は引き離されてしまうだろう。今もこのように逢《あ》えないのを、苦しくつらいと何度も思い返しても状況が好転するとも思えず、胸を焦がす恋しさがやるせなく、起き上がってもぼんやりとして動くことができなかった。

  二道《ふたみち》にもの思ふときは枕より跡《あと》よりうたて身を責むるかな
 (女三宮との愛を貫くか、それとも女四宮と結婚するかという二つの道に悩むときは、いつも枕元や足元から思いが湧き上がり、この身がひどく責められているようだ)

 だが、女三宮にひどく嫌われた後は、中納言の君もそれ以上は取り次ぐことができず、権中納言はただ泣いて日々を過ごした。
(続く)

 叔母の中宮に嫌われるのが怖い権中納言は、女三宮が好きだとは言い出せません。動くこともできず、悩み続ける姿が描かれています。
 ちなみに、今回の箇所は省略されている主語や指示語が誰の何を指しているのかはっきりしないため、翻訳者によって内容が異なります。わたしも自分なりに訳してみましたが、いずれにしても「女四宮との結婚は嫌だが、中宮が怖いので本当の理由を話すことができず、一方で心を開いてくれない女三宮にやきもきしている」という内容なのは間違いありません。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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