現代語訳『伽婢子』 和銅銭(3)

 翌日、里人に頼んで男が消えた場所を掘ってもらったところ、三尺ほど下に箱が埋まっていた。箱の中には百文の銭があり、他には何も入っていなかった。昌快《しょうかい》が手に取って確認すると、それは和同通宝の古銭だった。よくよく考えてみると、あの「秩父《ちちぶ》和通《かずみち》」と名乗った男はこの銭の精に間違いない。昌快は地面を掘った里人を呼んで一部始終を話した。
「初めから男の容姿が妙だと思っていましたが、改めて考えると合点が行きます。第四十三代・元明天皇の時代、当時の都は摂津《せっつ》国の難波宮《なにわのみや》でしたが、ある年の七月に武蔵《むさし》国秩父郡から初めて銅が献上されました。これにより、慶雲《きょううん》五年を改め、和銅《わどう》元年と改元し、その年に初めて献上された銅を使って銭が作られました。和銅通宝の古銭はそのときに造られたものに違いありません。男の帽子の外側が円形で内側が方形だったのは、銭の形状を現しています。青色の直垂《ひたたれ》は銅の錆《さび》だったのでしょう。五銖《しゅ》の重さは銭の重さを現し、和通《かずみち》という名は和銅通宝を略したものです。秩父の出身だというのは銅の産地だからです。都に上り、諸国をあまねく巡り見たと言っていたのは、銭となって諸国で使用されたことに相違ありません。そもそも、銭の外側が丸いのは天をかたどり、穴が四角なのは地面をかたどっています。裏表は陰陽を現し、四方を象《かたど》る四つの文字は年号を記して、天下を賑《にぎ》わす宝としました」
(続く)

 謎の男の正体は、日本で初めて鋳造された「和同開珎《わどうかいちん》」の精霊で、タイトルと奇妙な姿・出身地はそのヒントでした。
 なお、文中の「和同通宝」は「和同開珎」を指しますが、日本で「和同開珎」を作る際に模倣した中国の「開元通宝」と名前が混同しています。作者が混同した可能性もありますが、恐らく男の名を「和通《かずみち》」にするには「和同開珎」では都合が悪かったために、わざと改変したのだと思います。

 続きは次回にお届けします。それではまた。


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たま

古語⇔現代語。「水谷悠歩」の筆名で古典の現代語訳や小説を書いています。 http://yamanekoya.jp

現代語訳『伽婢子』

江戸怪談ものの火付け役となった『伽婢子』の現代語訳です。

コメント2件

! なるほど、、一円玉の旅がらすみたいな可愛らしさもありながら、人間の営みによって生まれながら、人知を超えた経験を得る、物質の不思議さがあり、文明の知られない部分について、考えさせられます…。

このシリーズは幽霊系の色々なお話のルーツを見るようで、とてもエキサイティングです。

あといつも、素敵だなぁと思うのですが、淡々とした丁寧な訳文と、たまさんのコミカルながら優しいまなざしが相まって、お話の世界が自分の中でぱたぱたと展開していく感じがあって、ときめきます…♡
こんばんは。ご感想、ありがとうございました。
(反応が遅くなってしまい、すみませんでした。)

『伽婢子《おとぎぼうこ》』は「怪異小説の祖」とも言われる作品で、いわゆる「怪談」のご先祖さまになります。ぞっとするような怖い話の方が有名ですが、ちょっと不思議な話も含まれています。
このエピソードは後者に該当する短編で、ミステリー仕立てのストーリーを楽しみながら訳しました。

古典や古語というと、どうしても難しいものだと思い込んで構えてしまいますが、少し言葉遣いが違うだけで、中身は今とほとんど変わらない「人の話」で、現代人でも十分共感できる内容だと思っています。
ほんのちょっとでも作品を楽しむお手伝いができているのなら、訳者としてとても嬉しいです。
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