現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その13)

 関白邸で数多くの平癒《へいゆ》の祈祷《きとう》を行った効験《こうけん》だろうか、権中納言の病は比較的落ち着いたまま日々を過ごしたが、「我ながら情けない」と思い焦がれているうちに月日が過ぎ、御阿礼《みあれ》祭《まつり》の時期になった。

  今日《けふ》ごとにかざす挿頭《かざし》はそれながらかひなき草の名こそつらけれ
 (祭りで頭に挿《さ》す挿頭《かざし》は昔から変わらないが、「逢《あ》ふ日」を連想する「葵《あふひ》」という草の名はわたしにとって甲斐がなく、ひどくつらい)

(続く)

 女三宮に追い出された後の権中納言はその後も相変わらずで、女四宮との婚約問題も放置してぐだぐだと過ごしています。
 ちなみに、文中にある「御阿礼《みあれ》祭」は上賀茂神社で行われる「葵《あおい》祭」の直前に行われる祭事のことです。

 これまで二人のやり取りばかりが描かれていましたが、以後、少しずつ他の人にもスポットが向けられるようになります。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


Amazon Kindleストアで各種古典の現代語訳やオリジナル小説を販売しています。(Unlimited利用可)