現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その16)

 五月雨が静かに降り続く手持ち無沙汰な夕べの空の下、権中納言はいつものように心を慰めるため、妹の尚侍《ないしのかみ》のもとに足を運んだ。
 御前《ごぜん》に若い女房たちが大勢控え、床に絵物語などが散らばり、賑《にぎ》やかでこの上なく華やかな雰囲気だった。尚侍は様々な色が織り乱れた撫子《なでしこ》襲《がさね》の衣を身に纏《まと》い、その上に意識的にしたように髪が零《こぼ》れ掛かり、横顔や髪の生え具合もひときわ美しく、「これこそ世に類《たぐ》いない女だ」と権中納言は目を見張った。妹の容姿が自分を鏡に映したようにそっくりであることに気をよくしたのだろうか。気分が優れないことなどを少し話して、すぐにその場を後にしたが、多くの女房たちは「本当に素晴らしい男性だ」と感動していた。
(続く)

 かねてからのマリッジブルーに加え、梅雨の雨でやる気が起きない権中納言は、妹の尚侍(姫君ではない方の同母妹)のもとを訪れました。
 自分と瓜二つの妹の美しさとお付きの女房たちの熱い視線でプライドが戻ったのか、上機嫌で帰ったようです。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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