現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その5)

 そもそも中宮は女四宮の降嫁《こうか》に乗り気ではなかったため、今回の件で権中納言は将来にわたって恨みを買うことになりそうだった。
 帝が退位の意向を表明している今、関白にとって中宮はそれほど恐れる相手ではない。しかしながら、中宮は亡き父に溺愛されていたためにひどく思い上がり、相手が帝や関白であろうと、誰でも意のままになるのが当然だと思っており、人の宿世《すくせ》が複雑に絡み合う世の中が煩わしく、嘆かわしい者たちばかりだと憤慨していた。
 関白や北の方も権中納言をたしなめた。
「どのような理由でそのように思い沈んでいるのだ。人は病人のように振る舞っていると、さらに病が悪化するという。いつものような気持ちになって起き上がりなさい」
(続く)

 中宮の不興を買い、父母からも仮病だと責められる権中納言に頼れる味方はいません。どれほどの状態だったかは分かりませんが、ひょっとしたら鬱だったかもしれません。
 ただ、本をただせば女三宮の強姦と決断力の欠如が原因ですので、同情の余地はあまりないと個人的に思います。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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