古語訳『待ちぼうけ』

待ち呆《ほ》れ 待ち呆《ほ》れ
一日《ひとひ》 営み畠《はた》稼ぎ
そこに にはかに兎《うさぎ》出《い》で
ころり 転《まろ》びぬ 木の株《くひぜ》

待ち呆《ほ》れ 待ち呆《ほ》れ
得たり これより寝て待たむ
待てば 山幸《やまさち》馳《は》せ出《い》でむ
兎《うさぎ》よ当たれ 木の株《くひぜ》

待ち呆《ほ》れ 待ち呆《ほ》れ
昨日《きのふ》鍬《くは》取り 畠《はた》仕事
今日《けふ》は頬杖《つらづゑ》 日向《ひなた》ぼこり
よき切杭《きりくひ》 木の株《くひぜ》

待ち呆《ほ》れ 待ち呆《ほ》れ
今日《けふ》は今日《けふ》はで 待ち呆《ほ》けむ
明日は明日はで 森の外
兎《うさぎ》待ち待ち 木の株《くひぜ》

待ち呆《ほ》れ 待ち呆《ほ》れ
元は清《さや》けき稷《きび》畠《はたけ》
今は荒野《あらの》の箒草《ははきぐさ》
寒き北風 木の株《くひぜ》

【 原文(作詞:北原白秋) 】
 待ちぼうけ 待ちぼうけ
 ある日せっせと 野良稼ぎ
 そこに兔がとんで出て
 ころりころげた 木の根っこ

 待ちぼうけ 待ちぼうけ
 しめた これから寝て待とうか
 待てば獲物が驅けてくる
 兔ぶつかれ 木のねっこ

 待ちぼうけ 待ちぼうけ
 昨日鍬取り 畑仕事
 今日は頬づゑ 日向ぼこ
 うまい切り株 木のねっこ

 待ちぼうけ 待ちぼうけ
 今日は今日はで待ちぼうけ
 明日は明日はで森のそと
 兔待ち待ち 木のねっこ

 待ちぼうけ 待ちぼうけ
 もとは涼しい黍畑
 いまは荒野の箒草
 寒い北風木のねっこ


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