現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その19)

 二人は涙を流し、鼻をかみながら夜すがら語り合った。
 別れ際、宮の宣旨《せんじ》は弁《べん》の君に口止めをした。
「侍従《じじゅう》の君や宰相《さいしょう》の君には、わたしが事情を知っている者だとは絶対に教えないでください。姫君がこの屋敷にいた時も何となくごまかして過ごしてきました。皇后宮《こうごうのみや》様が命を賭して隠し通したことなので、崩御された今も決して悟られぬようにお願いします」
 その後、弁の君は当て推量で侍従の君の局《つぼね》を訪ね当てた。一目見るや否や、互いに嬉しさのあまり泣き出してしまった。姫君の現状を聞いた弁の君は、「やはり本来こうあるべきだったのだ」と、この上なく嬉しく思った。
(続く)

 姫君の出自の秘密はごくわずかな者たちで共有され、姫君に仕える女房たち(侍従の君や宰相の君)も真実を知らされていません。
 このまま秘密を守り通せるかが、物語の鍵となります。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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