現代語訳『伽婢子』 和銅銭(4)

「銭は足がないのに遠くまで走り、翼もないのに高く上がります。無愛想な人も銭を前にしたら笑みを浮かべ、無口な人も銭を見れば口を開きます。杜預《とよ》には『春秋左氏伝』の癖があり、白楽天《はくらくてん》には詩の癖がありました。樊光《はんこう》は銭の癖があったとはいっても、銭の癖は誰にでもあります。鬼を従え、兵を使う場合も、銭以上の手だてはありません。欲深い者が銭を前にすると、まるで飢えた者が食べ物を求めるように取り乱し、貪欲な者が銭を得ると、病人が薬師《くすし》に見てもらったように元気になります。よって、銭は誠の宝と言えます」
 昌快《しょうかい》は笑いながら百文の銭を里人たちに分け与えると、真言陀羅尼《しんごんだらに》を唱えて供養した。
 その後、里人たちの家は繁盛して豊かになり、昌快を敬って大切に世話をした。しかし、後に山名《やまな》の乱が起きると人々は離散し、昌快の行方も分からなくなり、古銭もすべて失われてしまったという。
(了)

 今回で『和銅銭』のエピソードは終わりです。
 お金の有効性を語りながらも、古銭を手にした者たちが離散してしまった話で締めくくることで、逆説的な余韻を残す作品でした。

 次回からは新しいエピソードをお届けします。それではまた。


※Amazonでオリジナル小説『ヴィーヴルの眼』を発売中です。
 (Kindle Unlimited利用可)