現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その46)

「とにかくも、思い通りにならない宿世《すくせ》だったということか」
 権中納言は早くもつらく思いながら日々を過ごした。
「女三宮を見初《そ》めてから、もはや離れられない相手だと思っていることが中宮の耳に入っていたならば、ここまで強引な縁談を思い立つこともなかっただろうに」
 もはや取り返しのつかない過去を何度も悔やみながら歌を詠んだ。

  人知らぬ音羽の山の山桜
  心ひとつは慰めてまし
 (行方不明の音羽山の姫君がいたなら、この苦しい思いも慰められただろう)

(続く)

 権中納言は女四宮との縁談に気乗りしませんが、どうやら叔母と父親の決定に真っ向から異を唱える気はなさそうです。恐らく政治的に悪い話ではないと頭では理解しているからだと思われます。

 ちなみに、当時の貴族社会は一夫多妻制とはいえ、女四宮を妻としたら女三宮と結婚することはできなくなります。しかし、音羽山の姫君(正体不明)が見つかったら自分の屋敷に迎え、心を慰めてくれる相手となってくれるだろう――そんな甘い打算が歌にストレートに現れています。
 もっとも、姫君の正体は同じ屋敷にいる異母妹で結婚できませんので、権中納言にはもはや選択肢が残されていません。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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