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空き家銃砲店 第十八話 <庭石>

庭には水道がひかれるまで顔や手を洗うために使っていた手水池と、飾りの池があった。

かつて実用品だった池は四方を長方形のコンクリートで固めてあり、風情はなく、ただコンクリートのふちに石を置き、かつて手水(ちょうず)に使っていた金属の甕(かめ)を置いてあった。

甕にはほこりや落ち葉が入らないように蓋(ふた)がついている。蓋のつまみは青銅の獅子で、甕の下には蛇口があり、使う時には蛇口はをひねると、たまった水が出る仕組みだった。

手を洗った水はコンクリートの池に流れ、地下にしみ込むという自然に近い形がいいのか、今も夏にはカエルが鳴いている。

池の主の声が染みるのは黒部渓谷から運び出したという黒い岩。手水池と並んでおかれ、祖父が黒部ダム工事に携わった記念に持ち帰ったという。横幅1メートル30センチほどで布団や座布団を干すのに重宝していた。

私たち姉妹のために小型のブランコを買い、庭に置かれるようになっても、祖父はまめに芝を刈り、庭を慈しんでいた。

全体的に日本庭園の洋式で、飛び石、背の高い石灯籠は黒部の巨石の角にすえ、脇をつつじやさつきが彩る。百花の王と呼ばれる牡丹はなぜか裏門の近くの、小さな築山の上と下に二株あった。雪が降って白一面の庭になった時には、つつじを<生きる椅子>にして座った。

巨石の反対側には町の花、しゃくなげと紫木蓮。木蓮は祖父が好きだった花だと言う。祖母好みは池、仏間から見える正面の池は祖母のために作られたという。この池では飼っていた小型犬を泳がせたりした。刈り取った芝で濡れた体をふいたりして、犬にはさぞかし迷惑だったことだろう。

池の右脇には金属の二羽の鶴。エサをついばもうとくちばしを池の方に伸ばす一羽と、羽を広げたものか畳もうとしているのが分からない一羽。池の真ん中を外れたあたりに島に見立てた石、奥には滝を模した流れ、手前の岩には金属の背の低い灯籠。松とつつじ。

この飾りの池にどうにも居つかないのは魚で、外から水をひいていた時には原因不明で錦鯉が全滅。懲(こ)りた祖父は電気工事をして水道水をくみ上げ、小さな滝から流す細工をつくった。それでも小学生の私が釣り堀で釣ってきた黒い鯉は翌日に猫にとられ、娘たちのために買ったメダカは3日ともたず、一回りして生まれた姪の時にはついに瀬戸物の金魚を浮かべた。

おまけ

風水上、家の近くの池は湿気を呼ぶので避けた方がいいと言われています。また、滝に水を流すと電気代と水道代が高くつく事を大人になってから知りました。


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