《乱れ撃ちシネnote vol.03》　22.09.28

いま、会いにゆきます

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【Introduction】

一昨日の『サイドカーに犬』では男勝りのさばさばした女性、昨日の『大空港２０１３』では噂好きでお茶目なグランドスタッフを演じた竹内結子さん。彼女の持ち味と物語の切なさがみごとに溶け合っているのが『いま、会いにゆきます』です。
一人の相手と時空を超えて二度恋に落ちた歓びと切なさに彩られた奇跡の純愛物語です。

【Prologue】

美しい緑の森と池に挟まれた田舎道をケーキ屋さんの原付きが走り抜けます。
(画面変わってある家の室内)
目玉焼きを皿によそいながら隣の部屋に声をかける青年。
「そろそろ起きてたっくん。遅刻するよ」
家の前で止まったケーキ屋さんが呼び鈴を鳴らすと調理の手をとめて青年が玄関を開けます。

「おはようございます。随分早いですね」
「実は今日で店を閉めることになりました」
「そうなんですか」
「でも良かった。約束最後まで果たせて」
「長い間有難うございました」
「お誕生日おめでとうございます」
「有難うございます」

ケーキを受けとり食堂のテーブルに置いた青年に隣の部屋から男の声で「佑司、新しい歯ブラシどこだっけ」。

「昨日言ったろう」

青年は家を出て自転車で森の中を走り巨大な木の祠の前で止まりじっと眺めます。

✽青年のモノローグ
〈あの年、雨の季節にぼく達に訪れた奇跡はこの森から始まったんだ。たった６週間の奇跡。もしかしたらあれは霧の向こうの幻だったのかもしれない。けどぼく達は確かにママに会ったんだ〉
（途中から青年の声が子どもの声に変わり祠の中に幼い子どもを真ん中に手を繋いだ男女のシルエットが現れる）

(タイトル)　いま、会いにゆきます

森の中のひっそりしたお墓を囲んだ十数人の参列者。
墓石に花をたむけ手を合わせる親子がいる。
墓石には秋穂澪Aged ２８と刻まれている。 
参列者のひそひそ話が画面にかぶさる。

「澪ちゃんが亡くなってもう１年ねえ」
「大丈夫なのかな巧くんと佑司くん。巧くんはあんなだし」 
「やっぱり無理して佑司くん生んだのがいけなかったのよね相当難産だったみたいだし」
「佑司くん産むまでは元気だったもんな〜」

お墓をあとにする参列者たち。
墓石の前で幼い佑司は絵本を広げる。

ちいさなゆうじへ
ママより

ママが描いた絵本の最初のページに書かれた文字をじっと見つめる佑司。
人里離れた森の一軒家で若い父親巧と小さなゆうじ二人の暮らしがこれから始まる。
家の中には仲のよさそうな三人の写真が飾られている。

冒頭で目玉焼きを焼いていた青年が秋穂佑司（武井証）、父親が秋穂巧（中村獅童）。佑司は父親の巧のことをたっくんと呼んでいます。

この作品は病気で亡くなった母親秋穂澪（竹内結子）と父親巧の高校時代の出会いから死に至るまで、そしてその後起きたある奇跡が語られる切ない純愛物語です。

【Trivia & Topics】

✻人付き合いが苦手で口数の少ないお父さんは自分のだらしなさを佑司くんに申し訳なく思い、佑司くんはそんなお父さんの体に気遣いながらひっそり二人で暮らしています。年の離れた仲の良い兄弟のような二人。

✻司法書士事務所で働く巧の同僚永瀬みどり(市川実日子)、佑司の担任の先生浜中晶子(YOU)、ケーキ屋の店主松尾スズキ、巧の主治医野口先生(小日向文世)。芸達者が脇を固めていますがあの人が中村嘉葎雄だとは分かりませんでした。

✻主治医の野口先生にある日巧は告白します。
「先生、最近澪のことをどんどん忘れてるんです。ビデオの中でしか澪のことを感じられないんです」
巧はある病気にかかっています。

✻「澪がそろそろ戻ってくるんです」とあり得ないことを巧が口走っても否定せずにっこり受け答えする野口先生。普段は言葉少ない巧も安心して先生には何でも話せます。

✻澪が初めて登場したシーンがとても美しく画面に見入ってしまいました。

✻佑司と澪が森の中の廃屋に二人だけの秘密でタイムカプセルを埋めました。

✻ある日タイムカプセルに入れられた自分の日記を読んだ澪は次の日から佑司に家事を教え始めます。

✻佑司は澪に「ママはぼくのせいで死んだんだよね」と言い「君を幸せに出来ないでごめん」と澪に告白した巧。
「よく似た親子だな〜」と澪がつぶやくシーンがユーモラスです。

✻タイムカプセルに隠されていた澪の日記を読んで巧がすべてを知るシーンでなんて切ない物語なんだと涙してしまいました。

✻無数のひまわりに囲まれて巧と澪が出会うシーンの美しさは格別です。

✻梅雨から夏が始まるまでの６週間、照れ屋で内気な片思いどうしが時空を超えて二度恋に落ちる奇跡の純愛ファンタジーです。

✻本作品の受賞記録。
・第28回日本アカデミー賞　優秀主演女優賞。
・第9回日本インターネット映画大賞　主演女優賞。
・ MovieWalkerシネマ大賞 ベスト女優部門第1位。
・第22回わかやま市民映画祭　主演女優賞。
・第23回ゴールデングロス賞　日本映画部門 優秀銀賞
・第17回日刊スポーツ映画大賞　助演男優賞
・第22回わかやま市民映画祭　主演女優賞、助演男優賞
・第9回ニフティ映画大賞　主演男優賞　主演女優賞
・2004年度MovieWalkerシネマ大賞　ベスト女優部門第1位
・新藤兼人賞2004 金賞（土井裕泰）

これほど竹内結子が輝いている作品は観たことがありません。
どんな表情をしても優しさと気品と美しさを感じます。

竹内結子後日談。
２００５年６月本作で共演した中村獅童と結婚。

２００８年２月離婚。親権は竹内結子に委ねられた。

２０１９年２月所属事務所の後輩中林大樹と再婚。

２０２０年１月男子出産。

２０２０年９月２７日自宅で自死。

【６ star rating】

☆☆☆☆

【reputation】

Filmarks：☆☆☆★(3.5)
Amazon：☆☆☆☆★
u-next　：☆☆☆☆★

明日はこの作品では静かな佇まいを見せた中村獅童が攻撃的なキャラクターを演じた作品です。
その作品で初めて中村獅童を知りました。
日本アカデミー賞、ゴールデン・アロー賞、ブルーリボン賞、日本映画批評家大賞、毎日映画コンクールの新人賞5冠を中村獅童が制覇した見応えのある青春映画です。