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ため息俳句75 街灯 

「閑吟集」にある、唄。

思い出すとは 忘るるか 思い出さずや 忘れねば

 悲しいと、思い出すのは、結局忘れていたということだよ。思い出すなんていうことはないはずだよ。本当に愛して忘れたりしていないのなら。

岩波文庫「閑吟集」85・真鍋昌弘校注

そうだよなあと、思う。思い出すというのは、普段は忘れていたということだ。思春期のころのことであれば、半世紀もの間忘れていたと云うことになる。
もしもそうであれば、ふと思い出した古い古い出来事が事実であったのかどうか、確かめることができない。

この頃、若い頃に繰り返しみた夢の中での経験が、あたかも現実にあった出来事のように思い出されて、酷く懐かしく感じられたことが何度かあったのだ。これは、脳に異常をきたしたのか、痴呆の進行が早まったのかと、すこし慌てた。あれは、夢の中の俺の体験であったのだと気づいた後も、思い出した瞬間に呼び起こされた感情の余韻がしばらく残っていた。


名を知らぬ花の花束春コート

街灯の下では笑みき春かなし