舞台『ジャンヌ・ダルク』 感想

この感想は、ストーリーのネタバレを含んでいます。未見の方はご注意を!





・ジャンヌダルクという女性について
実在の彼女については昔、名前は有名だけれどなぜそんな英雄のように言われているのか知りたくて調べたことがあります。映画やドラマに「ジャンヌダルク」として登場する人物は、なんだか何が凄いのかは分からないけどとにかく威厳があって皆に信頼されている、立派な人という扱いでよく分からなかったので。それが少し調べてみたら、戦場が怖くて泣いたり火刑に絶望したり、その生々しい描写に彼女は架空の人物などではなく、確かに存在した一人の人間だったんだと感じました。そんな人がどうしてフランスを守れたのか、そして死んだのか…今回、お芝居を通してまた考えるきっかけが出来て良かったです。

・信仰とはなにか
作中ではそれぞれの人物の信仰が描かれます。それはジャンヌに代表される神への信仰、軍人たちの武力への信仰、権力者の金や名誉への信仰、そして民衆たちのジャンヌへの信頼という信仰。

人間は、何かを信じられなければ立っていられない。そこに登場するのが「何も信じられない」シャルル7世というの、なるほどな…。と思いました。

シャルル7世は最後にはジャンヌの覚悟を受け止め、死んでいった彼女や仲間を見つめながらフランスの危機に立ち向かうことを決意しますが、彼が見つけた信仰、信じるものは「死んでいった仲間の無念を晴らすのならば、それは自分である」という彼自身の決意だったのかなと感じています。

また、意外にも作中で最初に死ぬのは、ジャンヌを神の使いとは信じていないレイモンです。「神の使いであるかはもう関係ない」「皆はあんたの言葉だから信じたんだ」と彼は言います。彼が信じたのは、ジャンヌ・ダルクという、ただの農民である彼女そのものだったのでしょうか。

信仰は、人を救いもすれば殺しもする強力なものですが、ジャンヌの最期の姿に、「しかし、何を信じるかはあなたが決めることができる」というメッセージを見ました。私自身を振り返っても、これまでの人生から色々なことを『学んで』しまった結果、思いの外強く何かを信じていたり否定していたりする心に気付きます。それは無意識であって、けれど立ち止まって考えた時、それは本当に自分の意思で信じたものなのか、それとも否定してしまったものなのか…観客の心に問う作品でした。

・役者さんについて
清原果耶さん
清廉で気品があって、普段テレビドラマで見るより低めの声で話していたのですが、それが完全に馴染んでいて凄…となりました。農民の娘とは言うけれど、気高くて誇り高くてあまりそうは見えなくて、「王の妹」という設定にもすんなり納得。なのに神の声が聞こえなくなった時の動揺とか死にたくない…って心折れる場面とかは等身大の少女にちゃんと見えるんですよね。神の使いとただの少女、その行ったりきたりの表現が素敵でした。

小関裕太さん
シャルル7世、ほんとに序盤は立場に見合わぬ若さ任せの反抗期って雰囲気なのですが、ジャンヌみたいな達観した人間が希少で、普通はこうだよな…と。一番観客に近い存在ではないかなと見ながら思っていました。ジャンヌにあわや恋のような好意を見せるところ、思い通りにならずわめくところ、小関さんが演じると真面目で自分に刃が向きやすいが故のどうしようもない一途さ、いら立ちがその理由になっていると解釈したのですが、そこもシャルルの苦悩へ共感しやすい点でした。

・パンフレットについて
聖書みたいな作りで、凝ってる!物としても好きですし、ページ数がかなりあって実際の歴史やインタビューが充実してるの嬉しい。さらっと写真だけの作品もあるから、こうやって詳細を知れるの最高です。野坂さんのインタビューは特に勉強になった〜!



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