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美容室嫌い美容室に行く

髪の毛を40センチくらい切った。

ヘアドネーションという活動に参加するために、私は髪の毛を伸ばしていたヘアドネーションというのはその通り髪の毛の寄付である。私の3年半分の髪の毛は、癌の治療で自分の髪の毛を失ってしまった子供のウィッグになるらしい。

ヘアドネーションの活動は、何がきっかけかは忘れたけれど高校生の時に知った。私は美容室が嫌いだったが、美容室になかなか行かない女の子というのもどうしたものかと思っていた。髪が伸びてきたら髪の毛の話題になる。どこの美容室に行っているのかとか、どのくらい伸ばすのかとか、髪の毛を切った後の照れ臭さとか不安とか、そういうところから美容室に行くのは億劫だった。そして、ソワソワするおしゃれ空間で知らない人に髪の毛を触られながら数時間会話をするのも苦手だった。全てを解決するのが1000円カットだったが、小学校高学年くらいから流石に謎のプライドが芽生えた。

ヘアドネーションは社会貢献活動として私にとっての免罪符となった。高校3年間と半年をかけて、私は大学1年生の冬にヘアドネーションをした。30センチまで伸ばすのは本当に大変で、美容室嫌いの私が途中で後何ヶ月でヘアドネーションができるかを美容室に聞きに行ったほどだった。いざカットしてみると、達成感と頑張って伸ばした髪の毛に対する誇らしさを感じた。

そんな第一回ヘアドネーションからまたちょうど3年半、今度は自分のためにという気持ちよりは、ちゃんと癌の治療を頑張る子供のために伸ばしている感覚があった。ヘアドネーションのために伸ばしています、と免罪符ではなく言えた。やっていることは変わりないのだけれども、なんとなくそう思えることが嬉しいと思った。結んでもかるた中に垂れてくる髪の毛はすごくすごく邪魔で、Tシャツの首のところに入れていても袖からはみ出すほどだった。美容室は未だに苦手で、ヘアドネーションができる長さになっても腰は重かった。

いざはじめての美容室に行ってみた。できれば女性が良いと言うとまあまあ高い指名料を取られた。私の推しの吉澤嘉代子さんと同じ髪型にしてくださいと伝えた。


まず30センチの毛束がジョギンジョギンと切られた。黒いススキみたいだと思った。これだけで頭が軽くなってびっくりした。シャンプーの後、かよこちゃんの髪型に徐々に近づいていってわくわくした。美容師さんは可愛くて優しかった。髪の毛の手入れの話や美容室に行く頻度、前髪のセルフカットなど、美容師さんと会話をしていると価値観が合わないなーと思ってしまって嫌なのだが、昨日のお姉さんは軽蔑の気持ちを伺わせなかったから好きだった。手に職をつけ髪を切る姿もかっこいいと思った。

カットの後、こんなに切りましたよーと髪の毛を集めてくれた。足元を見ると、黒の小型犬みたいな塊が集合していた。さっきジャキンと切ったススキの毛束は尻尾だったのだな、と思った。

無事にかよこちゃんの髪型になり、髪の毛からはいいにおいもするし、ルンルンと帰宅した。次の日の朝、かよこちゃんの髪型をした私が鏡を見ると、かよこちゃんが映っているのではないかと思った。

現実は、ランジャタイの伊藤が映っていた。


鏡を見たら寝起きのランジャタイの伊藤がそこにいて驚いた。何が違うのか、顔だなと思った。

私の美容室嫌いは、この落差でもある。

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