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腐向け二次創作における、喘ぎ声のこだわり

 人の数だけ、喘ぎ声がある。
 リアルの話ではない。二次創作の話である。
 腐った小説を書く方なら、一度は迷ったことがあるのではないだろうか。
 『…』にしょうか『〜』にしようか、小さい『ッ』はどこに何個入れようかと。

 私は迷った。なんなら、今でも毎回迷っている。喘ぎ声というのは正解がなく、そしてかなり個性が出るのだ。作者の好み、という方が正しいかもしれない。

 こんなことを堂々と言うのもどうかと思うが、私は割とリアル寄りの喘ぎ声が好きだ。歯を食いしばって耐えて、耐えて、そして吐息のように出てしまう声とか、あまりの快感に我を忘れて、「あぁああ〜ッ!」と喉をのけ反らせて出てしまう声が好きである。
 したがってハート喘ぎや、いわゆる「んほぉ」系と呼ばれるものは使わない。長すぎるのも好みではないので、たいてい一行に収まるようにしている(何度も言うが、これはどれが正解とかではなく、私の好みの話である)。

 さっきサラッと「あぁああ〜ッ!」と書いたが、お気づきだろうか。全部『あ』かと思いきや『ぁ』も混ぜている。だがこれだけで、太い一本調子の「あ」ではなく、声に細かい揺らぎのある「あ」を表現できているような気がしないだろうか。

 喘ぎ声ではこんな小手先の技をかなり多用する。なんせ小説というのは、伝える手段というのが文字しかない。アニメでは絵もあるし動きもあるし色もあるし、声もあるし音楽もある。対して小説は文字だけだ。だから文字に色んな意味を込める。「ぅ、く……っ」だって「ぅ、く……ッ」とカタカナにすることで、少し印象が変わらないだろうか。より平常時と違う、テンパっている感じというか。喘ぎ声には、かなり字面を気にかける必要があるのだ。

 もう一つ喘ぎ声で気にかけているのは、クライマックスにかけての山だ。セックスシーンというのは長ければ長いほどありがたいものだが、やってることは粘膜同士を擦り合わせる運動である。飽きがくる、というのは大好きな推し同士の、待ちに待ったエロシーンに不適切かもしれないが、ページをめくってもめくっても同じようなことをやっているとやはり飽きてしまう。
 ここで華を添え、山場を作ってくれるのが、受けの可愛い喘ぎ声である。

 ここからは受けの喘ぎ声について、鼻息荒く語らせてもらう。
 最初は意味のある言葉を喋っているのがいい。「ん……大丈夫だ、痛くねえ」とか、「あ……っ、待って」とか、まだ漢字も入れる余裕がある。
 だが、これが進んでくると、全部ひらがなになってくる。「んんっ、……ぅ、ぁ、きつ……い」とか、「ッ……あ、ふか…い……っ」とかである。小さい『っ』をカタカナに変えるのもいい。特に先頭に『ッ』がくると、うわずった声が聞こえてくる気がする。

 そしていよいよ「ひあっ!」「いま、の……なに……っ?」。そう、分かる人には分かる、前立腺を見つけたシーンである。ここはびっくりして、何が起こったか分からない、という声がそそる。

 そのあとはもう喘ぐのみだ。全部ひらがなになって、意味のない言葉を吐き続ける。もちろん、間に攻めのセリフも入れる。Sっ気のある攻めなら「ぐちょぐちょじゃねぇか」等の意地悪な言葉でもいいし、大人で優しい攻めなら「可愛いね。もっと気持ち良くしてあげるね」でもいいだろう。これを間に挟むことにより、より受けに感情移入して読むことができる。

 ここまでで終わってもいいし終わらせることもあるが、さらに訳が分からなくなっている受けを表現したいときは、濁点を入れることもある。そう、濁点喘ぎである。「ぁあ゛〜〜ッッ!!」というやつである。
 私の推しは筋肉質のしっかりした体躯の男なので、この濁点喘ぎがとても合う。また、本能のままに獣のようになって繋がっている感じを出したい時にも重宝する。

 そして最後のフィニッシュだ。この時、受けはもう声も出せなくなっているのがいい。「ッ………!!」とか「んん〜〜〜ッ!!」とか、全身をぎゅうっと縮めて耐えている様子を表現したい。行為に慣れている受けなら「イ、くっ……ッ!」でもいい。とにかく『…』や『ッ』を多用する。
 ちなみにエロシーンを書く間私は、三点リーダー2個『……』をコピーしていて、すぐにペーストできるようにしている。そのくらい多用する。

 書き忘れたが喘ぎ声には、呼吸音も必要だ。「ぁっ、はあっ、ぁんッ」と乱れた呼吸は、二人が昂ってきている様子がよく分かる。話によっては喘ぎ声は出さず、呼吸音だけにする時もあるぐらいだ。
 静かに息を乱して抱き合っている二人というのも、大変良いものだ。

 もう一つ書き忘れたが、受けに攻めの名前を言わせるのもいい。名前というのは重要だ。二人だけの世界、お互いしか見えていない世界というのを演出できる。
 途切れ途切れの声で呼ぶのもいいし、助けを求めるように呼ぶのもいい。もう意識が飛びそうなところで、喘ぎ過ぎてかすれた声で攻めの名前を呼ぼうものなら、攻めはもちろん読んでいる私たちだってグッとくる。

 以上が私の喘ぎ声を書くときのこだわりだ。
 読み専の方には、ぜひ喘ぎ声の書き方に注目して読んでみていただきたい。そこには創作者のこだわりやテクニックが詰まっている。


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