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アラフォーで初めて腐に落ち、二次創作を始めた話

 遡ること二年前。私は人生で初めて腐に落ち、そして二次創作をはじめた。もう成人はとうに過ぎ、何なら二周回り、子供もそこそこ大きくなったこの歳からである。かなりの遅咲きだ。そもそものきっかけはあの漫画、鬼滅の刃だった。

 社会現象にまでなったこの漫画、我が家でもブームになった。アニメを全て見終えた子供は「コミックスが欲しい」と当然要求する。私も続きが気になり、コミックスを買い揃えた。思えば、ジャンプ漫画を買ったのは、中学生の時以来。「昔は三百六十円ぐらいだった気がするな」と妙に昔を懐かしんだりした。
 これをきっかけに、少年漫画熱が再熱した。ハイキュー、約束のネバーランド、呪術廻戦。そんな時だ。ぶらついていた本屋で、子供が「これ面白いらしいよ」と持ってきたのが『僕のヒーローアカデミア』であった。

 だが、最初私は乗り気ではなかった。表紙を見て「アメコミ風なのかな」ぐらいの印象で、欲しいという子供の言葉を「もう本棚がいっぱいだから」とのらりくらりとかわしていた。その状態が半年ほど続いた頃、私は特に目的もなく見ていたインスタで衝撃的なものを目にする。それは原作とは全く違う、大人の色気をぷんぷんにまとわせた爆豪勝己であった。

 大人の爆豪勝己。ぴたりとしたハイネックのセーターを着て大人の余裕を見せたものもあれば、鍛えられた筋肉を惜しげもなく見せつけて筋トレするものもあった。スリーピースのスーツ姿もあった。
 大人の色気、筋肉、スーツ。私の好みドストライクだった。私はあっという間に、二次創作での爆豪勝己の魅力に取り憑かれてしまったのである。

 私はそれからせっせとインスタを覗いては、好みの絵をブックマークしていった。こうして一週間経つ頃には、私のブクマは爆豪勝己と轟焦凍でいっぱいになった。ちなみに、爆豪と並んで人気のある轟焦凍というキャラも、最初はそれほど惹かれなかった。「あー、イケメンで影があって実力者だけど暗い過去があるキャラね」と『こういうのみんな好きでしょ』の術中に陥るのが癪だったのだ。しかし、しばらく見ているうちに、いつしか轟の魅力にも落ちていた。

 こうして、爆豪と轟のイラストをニヤニヤしながら眺める日々。それがどういうきっかけだったか忘れたが、私はインスタよりも膨大な二次創作がある場所を知ってしまったのだ。そう、ピクシブだ。
 私は愚かにも、インスタに流れていた画像は無断転載であり、ピクシブの方が本家だということをこの時初めて知った。(本当に無知だったのだ。許されたい)

 そこにはインスタで見たことのある絵があちらにも、こちらにもあった。まさに、宝の山だ。私はそこで初めて作者の名前を知り、プロフィールから辿っていって他のイラストを身悶えしながら眺めた。と同時に、ここにはイラストだけでなく漫画もあること知ってしまう。

 BLの漫画を読んだのは、それが初めてだった。初めて見た時は「同じコマにアレが二本ある!」と衝撃を受けた。考えてみれば当然なのだが、男同士って、そうかこういうことかと、妙に納得しながらドキドキして読んだ。
 その時は男同士のセックスのやり方も知らなかった。攻めの名前を先に書き、受けの名前を後に書くというルールもこの時知った。私はさまざまなBLの知識を得つつ、心臓をバクバクさせながら夢中で読んだ。サンプルで最初しか読めないものも多かったが、最後まで読めるものは小躍りしながら何回も繰り返し読んだ。
 こうやってピクシブの沼にハマること数週間。私は次なる欲望が出てきた。自分でも漫画を描きたくなったのだ。

 だが、ここで大きな問題が立ちはだかった。私は絵が描けない。全く描けない。というか、描こうとしたことがない。お絵描きをするような幼少期を送ってこなかった。描けるのは、三秒で描ける猫とかチューリップみたいな絵だけ。
 こんな私が、今から絵の勉強をするのはかなり難儀だろう。しかも私が描きたいのは、一枚絵ではなく漫画なのだ。どう短く見積もっても五年はかかる。そして五年頑張っても満足できるものが描ける気がしなかった。

 この時私は、庭の草むしりをしていた。普段は草むしりなどせず庭は荒れ放題なのだが、一年に一度地域の清掃活動がある日は、掃除が終わった後その流れで自宅の庭の草むしりをすることにしているのだ。私は草をブチブチ抜きながら、悶々としていた。
 漫画は描ける自信がない。それに五年後に今と同じ熱量がある保証もない。と、ここで妙案が閃いた。小説なら書けるんじゃね? 
 小説だって書いたことはなかったが、この時はなぜか書けると思った。だって日本人だし、母国語だし。書ける気がする。

 草むしりをしながら、私の脳はフル回転する。まだ一文字も書いていないにも関わらずあっという間に妄想は広がり、今度は完成した小説をどこで発表するかまで考えはじめた。私はこの時、ネット小説に関しても無知だった。でも、なろう系小説とかいうやつがネットで投稿されていることは知っていた。検索すれば、きっとどこかに適したプラットフォームがあるのだろう。そうだ。もしかしてピクシブにもあったりして。
 草抜きを終えると、私はすぐにパソコンに向かった。ピクシブを開く。すると、普通にあるではないか。小説投稿のページが。しかもワードなどを使うことなく、ピクシブ上ですぐに書ける。
 私は「これがやりたい」と思ってからの初動が早い。この時もすぐにピクシブアカウントを取得すると、小説を書きはじめた。書きたいネタは、草抜きの間にもうできていた。

 私は頭の中の取り止めのないモヤモヤとした妄想を、早く文章というきちんとした形にしたかった。そして世に出したかった。初めて書いた小説は、最初のシーンだけの三千文字。本当は最後まで書きたかったが、それには時間がかかる。私は早く出したい。お尻がソワソワして仕方なかった。
 幸いにもピクシブはシリーズ設定ができたので、私はこの短い話を第一話としてピクシブに投稿することにした。草抜きの翌日のことだった。

 ちなみに私はこの時点で、二次創作『小説』を読んだことがなかった。イラストと漫画だけで。だから小説投稿のルールも知らず、タグにキャラ名や原作タイトルをそのまま書くなどの失態も犯していた。今思えば恥ずかしい限りだ。
 また、ピクシブにどのくらいの読者がいるのかも全く知らなかった。だから「三人ぐらいに読んでもらえたらいいな」と思っていた。ノートに書いた小説を、教室で友達と回し読みする感覚だった。だからあっという間に閲覧数が百を超えるのを見て、ネットってすごいなとしみじみと思った。

 その日から、頭は小説のことでいっぱいになった。不思議と書き方は迷わなかった。頭の中にある妄想が形になっていくのが楽しくてたまらなかった。小説という形ができたことが嬉しかった。こうして大興奮の中で、十話をかけて話は完結した。
 
 人生で初めて書いた小説。この時ヒロアカ映画のライジングはまだ未視聴だったのだが、私の書いた小説のネタが残念ながらライジングと丸かぶりであったことは、後から知った。

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