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てぃくる 323 雨宿り

「雨が降ってる間は飛べないよなあ」
「うん。飛べないんじゃなくて、飛ばないんだけどね」

「飛ぼうと思えば飛べるの?」
「飛べるよ。飛びたくないだけ」

「そうだよなあ……。羽濡れちゃうもんね」
「それはいいんだ。行けるところまで行けばいいだけだから」

「ふうん」
「でも、雨の中を飛ぶと、飛ぶことだけで精一杯になっちゃう」

「うん」
「飛んでて、楽しくないんだ」

「それでも、飛ばないとならないことがあるの?」
「ある。だから、飛ばなくていいなら飛びたくない」

「うん」
「こうしている間は、どこにどうやって飛ぼうか、考えられるからね」

「あはは。そっかあ」


 ホスタ
の花の中。いるかいないか分からないくらいの小さな虫が、ずっと雨宿りしていました。

 もう雨は上がっています。花も水滴を落とし、顔を上げました。
 それでも。小さな虫にとっては、まだ雨降りなのです。

 ……まだ。雨降りなのです。

(2017-07-14)

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