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てぃくる 176 血管

 アベリア
 植栽の定番として、あちこちに植えられていますので珍しい植物ではありません。和名はハナツクバネウツギ(もしくはハナゾノツクバネウツギ)。日本在来のツクバネウツギと比べて、常緑(半落葉)で花が大きく、花期が長く、花色が複数あり、葉に白や淡黄色の斑の入った品種もあります。花木としては、在来種よりアベリアの方が優秀ですね。

 そのアベリアですが、花弁の中に血管があるのがお分かりでしょうか?
 もちろん、本物の血管ではありませんよ。血管のように見える脈が走っているということです。

 この脈。花が桃色の品種でははっきり見えるんですが、白花の品種ではなぜか見えません。脈がないわけではなく、脈の色も白なので目立たないということなのでしょう。


 怒りで額に血管が浮く。そんな顔をしたくも見たくもありませんが、顔を紅潮させ血管を浮かせているのを見れば、ああ怒ってるんだなということが分かります。
 じゃあ、穏やかな顔をしていれば、その人は怒っていないのか? 決してそんなことはありません。

 嬉しい、楽しいといった陽の感情は、割と素直に表情や行動、言動に表せます。感情と表現が直結してるんです。でも、怒りや恨み、悲しみといったネガティブな感情は、出来れば持っていたくありませんし、人に見せたくもありません。
 人は出来るだけそれを小さくし、見えにくくし、あっさり処理してしまおうとします。理性で丸めて、押さえ込もうとするわけですね。しかし、処理し切れなかったマイナス感情は心のどこかに澱のように溜まって、突如激しく吹き出すんです。

 厄介なことに、プラスマイナス両方の感情を常にぶちまけている人は、それが当たり前だと思っています。そして、感情抑制傾向のある人がマイナス感情を表さないことを甘く見るんです。
 デリカシーを無くし、応対が軽率になり、口にしてはいけないことをずけずけ言い、一方的に相手を振り回す。そういう人は、予想もつかない激烈な反撃が自分に突き刺さった時に初めてぎょっとするんですよ。なんで……ってね。

 白いアベリアの花を見るたびに。わたしは見えない血管の怖さを思い起こすのです。


言ひたきこと言はぬと言へぬは違ふのだ
 足らぬ言葉で黙れと言ふ君

(2015-08-01)

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