早朝の日記

 ここ数日、数週間、多忙が極まっていた。

 合間を縫ってプレイしたメギド72ではメインストーリーが更新されていた。内容は実に面白く、それでいて、私の大好きなキャラクターに影を落としかねないものだった。詳しい言及は避けるが、疲労困憊の心身で受け止めるには重すぎた。個人的に小動物の死体を目の当たりにする機会が多かったのも相まって、余裕がなくなっていた。気づけばログインしていない日が続いた。

 深夜に目を覚ますことが増えた。今日は午前1時、3時、4時に、心臓ごと引っ張り上げられるように起きた。部屋も窓の外も暗かった。今日なんの用事も入れていないと思い出した。つち色のもこもこズボンを穿いた。まっしろなリュックサックにノートパソコンを入れた。
 幼なじみは、中学生になると急に「ラップトップ」と言うようになった。私がノートパソコンと言うと「ラップトップね」と、いちいち訂正する悪癖がついていた。それ以外は理想的な友だった。高校が分かれてからは話題は受験、恋愛、就職などになり、機器の名称で戯れることもなくなった。あれは今でもラップトップと呼ぶのだろうか。個人的にはサランラップを連想させるので好きな呼び方ではない。

 顔を洗って眉毛だけ整えた。あとはマスクで何とかなれと祈って家を出た。あたりはまだ暗かったが、道路は車で埋まっていた。
 マスクを外して息を吐いた。空気が白くならないことに驚き、暖冬の影響かと地球温暖化に思いを馳せ、そもそも2月が終わり3月が来ようとしていることにまた驚いた。

 なぜ老人と犬は早朝に散歩するのだろう。服を着ている犬が2匹。着てないのが3匹。かわいかった。

 足が疲れて腹も減ったので喫茶店に入り、モーニングを頼んだ。やたらと眠くてたまらない。
 X(旧Twitter)のタイムラインを見る。ポケモン28周年だという。
 高3になる前の春休み、勉強そっちのけでポケモンXをプレイしていたのを思い出した。サンだったかな。ポケモンにはいつからか分からないが主人公の着せ替え機能が追加された。そんなの要らないのに。

 顔を上げると、私の他にも客が入っていた。若いのから老いたのまで様々だ。髪のない男が熱心に新聞を広げているのが見えた。はげあたまのことを何と読むのだったか、答えがちっともわからないことに気づいた。スマホにはげあたまと入力する。禿頭。読み方。検索。「とくとう」。それだ。以前わかっていたはずなのに忘れてしまっていた。学力が低下している。いや、勉学以外のことが頭に入りすぎている。わびしい。

 それから勘定をして、行き交う車のネームプレートで遊びながら歩いて帰った。
「72」が書いてあるとメギド72のことを思い出す。愉快で稚拙な呪いだと感じた。この世に72がある限りきっとこのゲームが脳裏に蘇る。悪魔を召喚するには最も手軽で短い言葉だった。

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