未来プロデュース  ―アイカツ!が描いたもの


「私の熱いアイドル活動、アイカツ!始まります」 


 そんな言葉から始まる作品、それが『アイカツ!』である。

 トップアイドル、神崎美月に憧れて全生徒がアイドルであり、アイドルを養成する学校、スターライト学園の門を叩いた星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭と学園に所属するアイドル達がアイドルとしてどう羽ばたいていくかを描いた熱いアイドルとしての活動を描いた本作は「女児向けキッズアニメ」という作品ながらも大人のファンを生み出しているなど、作品自体に魅力と面白さを感じている人間が多く存在している。

 元々はバンダイナムコゲームスが開発したデータカードダスというアーケードゲームの販促を目的として制作されたアニメであるが、アニメで興味を抱いた大人のファンも増えており大人が積極的にプレイしている姿などが見られるようになるなど、今や大人の存在を無視できない作品となっている事は間違いないだろう。

 バンダイナムコ自体はメインの客層以外の客層もターゲットに含めた商売戦略を練ることが出来るなど、その辺りの柔軟さが特徴なのだが、『アイカツ!』においてもそれは健在だ。ゲームのイベントとしてアニメ本編に連動したイベントが開催されるなど、そのフレキシブルさで大人も子供も楽しませてくれる。

アニメとゲームが一体となって盛り上げてくれる本作であるが、アニメ自体も大変魅力的で、2012年10月にアニメが放送開始し、アイドルとして成長していく星宮いちごをはじめとするアイドル達の姿は子供だけでなく大人も楽しませてくれた。

そしてアニメとゲームの人気から二期が決定。現在第二期シリーズとして新たにドリームアカデミーというライバル校が登場し、いちご達スターライト学園のアイドル達とアイドルとしての高みを目指して日夜競い合う物語でまた人を惹きつけている。 

『アイカツ!』シリーズの監督を務めるのは木村隆一。ガイナックスの『はなまる幼稚園』、サンライズの『夏色キセキ』などで副監督を努め、本作が初監督になる人物だ。脚本は『宇宙兄弟』や『ミラクル☆トレイン』などのシリーズ構成を担当した加藤陽一が担当している。 

また『夏色キセキ』で木村隆一を副監督に抜擢した水島精二はアイドルオタクとしてスーパーバイザーとして本作に関わりアイドルについて理論的に扱っている他、『アイドルマスター』における代表的な作曲家の一人である神前暁が所属する音楽集団『MONACA』が本作の劇伴やアイドル達が歌う楽曲の全てを担当。「発注があるごとにそれぞれが得意とする音楽について分析し合い、担当者を決めている」と語っている通り、様々な音楽性を持つ人間が関わることでアイドル達が活躍する物語において多様な音楽で彩りを与えており、二期においてもまた様々な楽曲で作品を盛り上げる。 

本作の理論的な部分はおそらくスーパーバイザーである水島精二による分析が入っていると思われているが、そうした理知的な描き方をすることで「アイドル」というものを解体・再構築しているのが本作の一つの特徴だといえ、そうした理知的な部分が好みのファンも多い。


 ■アイドルの成長物語 

 そんな『アイカツ!』であるが、二期が始まった今改めて一期を振り返ってみると、無駄が全くない話運びに気づかされる。 

アイドルを知らなかった星宮いちごが友人である霧矢あおいと共にトップアイドル・神崎美月のライブに行き、本物のアイドルの凄さに憧れ、アイドルを養成する学校、スターライト学園へと編入を決めてからの一連の流れというものは、アイドルというものをよく知らないいちごの視点を通じて「アイドルって一体何をするものなのか?」ということを展開していく、所謂お仕事体験物のフォーマットに近い物語になっているのだが、そんな中で繰り返し提示される「オーディションという競争システムが生み出す勝者と敗者の存在」や「アイドルというのは一人で成立するものではなく、『ファンがアイドルを応援するからアイドルが頑張れってファンを応援できる』という、アイドルとファンの関係性」、そして「アイドルが活躍する裏側で努力し続けるスタッフ達の存在があってこそ、アイドルは輝ける」というお仕事としての側面まで、段階を分けて様々な視点から描くことで「アイドル」という単語からはピンと来ない存在についてロードマップを引いていく。

 そんな中で徹底されているのは「アイドルはスタッフやファンがいるからこその存在で、そのことを忘れてはいけない」というプロ意識の存在で、このプロ意識があればこそ「オーディション」という『アイカツ!』世界におけるアイドルの競争原理の意味が提示されるし、「勝った人間の果たすべき義務」というものにまで及ぶ「アイドル」がファンと同じアイドルに対して果たすべき誠意というものが描かれる。

 17話までのテーマというのはそういった「プロ意識」と「その誠意の果たし方」である。だからこそアイドルは自分達を応援してくれる今までのファンやこれからファンになってくる観客達、そして自分達を支えてくれるスタッフや自分を信頼してくれるスポンサーや衣装をデザインするデザイナー達の思いに答えるべく日夜努力を積み重ねているのだ!というのが本作の序盤で主なテーマだ。そうしたテーマがひとつの形として提示されるのが16話・17話のスペシャルライブの話で、トップアイドル・神崎美月との対話、そして今まで展開してきた全ての要素が収束していくスペシャルライブの中で「新人アイドル・星宮いちご」として活躍してきたいちごに「新人だから」という甘えに頼りきっていいのか? それで悔しくないのか?ということを問いかけ、「なぜ自分はアイドルとしてステージに立ちたいのか」ということを自分の中で考えさせる。「スペシャルアピールを三回出す」というのはトップアイドル・神崎美月にしか出来ないことだと何度も繰り返させていたところも興味深い。

 そうして「神崎美月にしか出来ないこと」を繰り返して言わせた後に、それをやらせようとするということで、一度試すような作りになっている。優れているのはそうした「出来ないかもしれない事」を「失敗を恐れるな!」という前向きなメッセージ性を「そこで止まらない事で見える世界」というものを見せること、そして神崎美月の凄みというものを身近な視点で描き直すことで、神崎美月というアイドルの格を更に高め、「それでもその後を追う」ということを決意する星宮いちごのドラマの熱さが際立つのである。 

またこの段階で「アイドルの活躍する場所は多様である」ということを提示し、「自分にとって重要なステージというものは千差万別だ」ということを描いているところも興味深いところで、劇中劇である「イケナイ刑事」のオーディション回で登場するアイドルは「自分に自信がなく、何もない自分だからこそ、何かになれる事に対して人一倍努力する」という演劇やドラマに比重をおいたアイドルだし、その一方で三ノ輪ヒカリのように「表舞台には一切出て来ず、ネットを中心に活躍するアイドル」というものを登場させることで、全てのアイドルが派手なステージに立つ事や歌って踊る事を主な興行にするアイドルではなく、アイドルという世界は様々なステージがあって、そのステージごとを特化的にしているアイドルの存在はこの作品世界のアイドルというものが「これをしていればいい」というものではない、大変な「職業」であることを感じさせる。18話以降の中盤を支える物語というのは、そうした「多様なアイドル像だからこそのアイドルとしての在り方」というやつで、19話から登場する藤堂ユリカの特定ブランドの魅力を伝えるための吸血鬼という設定などからくる「アイドルとしてのキャラクターの作り込み」や北大路さくらのような「自分の得意とするものを混ぜ込んだアイドル像」というものに繋がっていく。 

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