楠木ともりの降板を巡る言論についての私見

2022年11月1日。
声優の楠木ともりが遺伝性疾患である「エーラス・ダンロス症候群(関節型)」と診断され、以降の活動において健康面を最優先にした対応を行っていくと発表しました。

それと同時に『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』にて楠木ともりが上記の診断が出たことを受けて長く演じてきた優木せつ菜・中川菜々の降板を申し出、協議の末に製作委員会が受け入れた、という発表されました。

このニュースについて、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のファン(楠木ともりのファンもかな)と、それ以外の人達であまりにも受け取り方に温度差があるため、「滅茶苦茶詳しいというわけではないけど、一応の流れは理解している」人間としてちょっとだけ書いておきます。

前提:

まず今回の一件で大きく誤解されているのは「踊れなくなったから降板」という点です。
確かに『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』はライブ公演を精力的に行っており、ファンミーティングなどのイベントなども多数開催されておりますのでそう考えてしまう気持ちが分からなくもないのですが、こと楠木ともりの降板については「踊れなくなったので降板」は事実誤認と言っていい。
といいますのも、今回の発表より約一年ほど前の2021年9月3日の発表以降、楠木ともりは身体面での問題からダンスを控えており、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』側も「楠木ともりの健康最優先で、彼女の負担にならないように事務所の判断を仰ぎながらやっていく」という考えの元でライブやイベントへの出演してもらっていたからです。

本当に「踊れなくなったから降板」だとすれば、2021年9月3日の発表の時点で降板の発表が出てもおかしくない。むしろそちらの方が自然でしょう。
にも関わらず、一年近くもライブやイベント、今年4月に放送されたアニメにおいて楠木ともりを「優木せつ菜」として起用し続けたのは「優木せつ菜は楠木ともりだから。どんな形でも続けてほしい」という『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』側の意思があったからで、楠木ともり側もその意思を汲み、了承したから「優木せつ菜」として出演してくれていたのでしょう。
ファンもこうした事情を知り、理解した上で「楠木ともりの優木せつ菜」を応援していたんですよね。

だからファンはやり切れなさを覚える

こうした経緯があったので、今回の降板はファンにとって大変ショックな出来事でした。
少なくとも「事情が事情なだけにダンスなしは仕方ないよね。それでも楠木ともりの優木せつ菜が見れるだけで嬉しいから」と日々を過ごしてきた人間にとっては「快方する見込みは薄い」「負荷がかかれば進行もあり得る」という理由からドクターストップがかかってしまったこと、そして楠木ともり側と製作委員会の話し合いが持たれた上で「降板」という形に至った事は「現状これが当事者にとって最もベストな決断だった」ということでしかない。
そういう理解がされているからか、降板の発表を受けたファンは「本当にどうしようもないことなんだな。今までのやり方を続けていくことも、楠木ともりの事を考えるなら厳しいんだな」という受け止め方をしていて、どうしようもないだけにやり切れなさを感じている。
『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』にどっぷり浸かっているわけではない私も、今日に至るまでの彼女の頑張りを見ているだけに、降板については上手く処理しきれていないですね。

結びに

上記の経緯を経ての降板なので「声優業界は声優を酷使している!」については、今回の一件に関しては見当違いであるというのが私の見解です。

身体面での不安を抱えている。それでも「このキャラクターを演じられるのは貴方しかいない」と言われて、楠木ともりはスタッフや共演者、ファンに支えられながらステージに立ち続けてきた。一年近く、自分に許される範囲の事を精一杯やってきた。
しかし今回遺伝性疾患であると確定した事で、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会における継続的なライブ活動が困難」という判断を下された。それに伴って楠木ともり側から「降板したい」という申し出があり、製作委員会で協議した結果、降板を受け入れた。

こういう流れを「楠木ともりは酷使された結果、体を壊して降板となった」という論調で括ってしまう事は事実関係を捻じ曲げているし、楠木ともり自身のこの一年間なんとかしてステージに立とうとしていた努力や、降板を申し出るに至った決断をも軽んずる行いであると思います。
少なくとも声優の労働環境や労働問題について論ずる際に、上記の経緯を経ている今回の楠木ともりの降板を引き合いに出すのは不適切なのではないでしょうか。

本当ならこういう話とかしたくないんですが、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』と楠木ともりを見てきた人間と、今回の一件で知った人間との温度差があり、それにより『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』側への批判が散見されたので、一個人の私見として書き残しておきます。

余談

余談ですが、ライブ公演などを行っている声優が不調を訴えた際に、定期的に「声優が歌って踊るのはおかしい。声優は声で演技するべきだ」という声が出てきますが、「キャラクターを演じる」という過程で「歌う」と言う行為が必要になることもありますから「歌う」ということも演技の一部でしょう。
またダンスについても同じで、ダンス(=身体を使った演技)はやっぱり出来た方がいいんですよね。
アニメやゲームのイベントなどで「生アフレコ」とか見たことがある人もいると思いますが、そこで演技を見せている声優って本当に声だけで演じているかというとそうではないですよね。手を動かしたり、立ち方を変えてみたりと体を動かしながら演技をしている。ダンスもそういう「身体を使った演技」ですから、出来ないより出来た方がいい。
そうしたこともあって、養成所などでもカリキュラムに組み込まれていたりします。

加えて言うなら、最近はオーディションの段階で「ライブ公演がある」と言うことについて、募集要項に書かれてたりしますね。
下記は『ラブライブ!スーパースター!!』の一般公募オーディションですが、「ライブ活動あるよ」と書かれてますね。

こうした事を呼んだ上で応募するかどうかは結局本人次第ですから、それを「無理矢理やらされてる!」みたいな言われ方をするのは、あまりにも本人の意思を無視しすぎでは?とか思ったりします。

まあ声優業界も色々ありますからね。
言いたいことは以上です。

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。