ウマ娘好きが福永祐一『俯瞰する力』を読んで

『ウマ娘プリティーダービー』で描かれているエピソードは、その全てが競走馬!というわけではない。
競走馬の周囲にいた人達のエピソードを中心に組み立てられたものも多く、それが面白さになっている側面もある。その中でも特に取り上げられやすいのは騎手だ。
競走馬と共に勝利も敗北も味わうことが多い騎手のエピソードは『ウマ娘』においても競走馬達の物語にドラマチックさと微笑ましさを添えてくれる。

『ウマ娘プリティーダービー』にラインクラフトとシーザリオが主役を務めるメインストーリー第二部が開幕する頃。
元騎手で現調教師である福永祐一の自伝である『俯瞰する力』をいただいた。誕生日プレゼントである。

第一部完結からかなりの年月が経過して、ようやく実装となったメインストーリー第二部であるが、この物語が2020年ジャパンカップをゴールに見据えた物語であることに疑いの余地はないだろう。
東京競馬場でしかない景色。
シーザリオが何者かに語りかける導入とその内容。
それらが指し示すのは三冠馬となったコントレイルと三冠牝馬となったデアリングタクトをアーモンドアイがねじ伏せた伝説のジャパンカップに他ならない。
そしてそのジャパンカップをゴール地点に見据え、ラインクラフトとシーザリオが主役として綴られる物語を楽しむのなら、主戦騎手だった福永祐一の自伝は読んでおいた方が絶対に良い。
そう思っていたところに本書を誕生日プレゼントでいただくことが出来たのは感謝しかない。ありがとう。

さて本書『俯瞰する力』であるが、概ね「デビューから調教師試験に合格し、引退するまで」を福永祐一自身の言葉で記したものと思って問題ないかと思う。
天才騎手の子として生を受けた福永祐一が騎手を志し、自身のコンプレックスと向き合い、様々な人や馬に支えられながら「天才ではない者」として走り抜くことが出来た。それが出来たのはなぜか。それは「俯瞰する力」があったからだ。
そこを主軸として騎手・福永祐一が語られていくのだが、『ウマ娘』を起点として競馬を見始めた人間として強く感じたのは「キングヘイロー」だ。
『ウマ娘』のキングヘイローは「私はキング」と常に気高さを見せながらも生来の面倒見の良さで後輩達から慕われる存在で、勝ちきれない悔しさをバネに挑み続ける物語が多くの人から支持されている。
そんなキングヘイローの物語を「面白い」とは思っていたし、人気があるのも納得していた身ではあるが、『俯瞰する力』を読んでいくと「福永祐一の要素が多くない……?」という気がしてくる。
自分を鼓舞するかのように強い言葉をあえて選ぶところとかもそうだし、天才にはなれないのだと受け入れて頑張る姿もそうだ。
とりわけ面白かったのは日本ダービーのエピソードだ。
本著において福永祐一は逃げのような形になってしまった事を「気づいたときには自分が先頭にいた」「完全にどうかしていた」と語っているのだが、『ウマ娘』のメインストーリー第二部のキングヘイローにおいてもそのような描写がなされているのだ。
「『ウマ娘』のキングヘイローは福永祐一の影響が強い」という話は聞いていたが、ここまでCygamesスタッフがキングヘイローと福永祐一を重ねて見ていた事に驚かされる。そりゃ相棒ポジションで第二部でも抜擢されるはずだ。
個人的には岩田康誠や川田将雅とのエピソードも楽しく読ませていただいた。
岩田康誠は「自分に持ってないものを持っている、自分とは違うタイプの騎手」として、川田将雅は「自分が見えてない自分を気づかせてくれる後輩」としてのエピソードだったが、いずれも本書のタイトルを強く感じさせる良いエピソードだったと思う。
そんなわけで『ウマ娘』好きとしてはとても面白く読ませていただいたのだが、一番大きな収穫は「メインストーリー第二部はジャパンカップをやらないと終われないでしょう。アーモンドアイとコントレイルが確定してるの、あまりにも強すぎるのでは」という部分が確信出来たことだ。
本書で福永祐一は「コントレイルがいたから調教師を目指す事ができた」と語っている以上、『ウマ娘』においてもキングヘイローの物語を受け継ぎ、ラインクラフトやシーザリオで始めた物語を締めくくれるのはコントレイルしかいないのだ。ということは来るのだ、あいつが。アーモンドアイと一緒に。
えー。そんなの絶対引くまで回すしかないじゃない。
そう思わされた時点で私の負けなので、覚悟して生きたい。








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