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結果発表① #あなたへの手紙コンテスト

 10月に募集しました #あなたへの手紙コンテスト の結果を本日から3日連続で発表していきます。
 本日発表するのは、緑風りょくふうをお渡しする8名のみなさんです。この記事で初めて作品に触れてくださるかたにも楽しんでいただけるように、形式やテーマや対象が重ならないよう、順不同で発表します。
 なお、紹介用に作成した画像は自由にお持ち帰りいただいて構いませんし、二次使用もOKですが、画像を加工するのはお控えください。



 あのとき違う道を選んでいたらいたはずの「もうひとりの私」って、きっと誰の胸のなかにも眠っているはず。もちろんわたしの中にも息をひそめて眠っています。
 不思議なパラレルワールドに迷い込むような感覚、お父さまの娘への思い、「たったひとり宛て」なのだけれど往復書簡という面白さ、関西弁で語られる手紙の温度。直接お話ししたことはありませんが、手紙からわたなべますみさんのやわらかな声が聞こえてくるようで、読んでいてとても心地よかったです。
 どちらも わたなべ ますみさんの人生なのに、わたしまで郷愁にかられる不思議で愛おしいお手紙でした。



  “自分に宛てられた「人の気持ち」なんて知りたくなかった。” 
 この一文が胸に突き刺さりました。開封できない手紙は、当時の「僕」が抱えていた闇の象徴なのかもしれません。
 それでも、その手紙を捨てなかった ぼんやりRADIO青年は、人の気持ちを「踏みにじった」のではなく、ただ遠ざけただけ。「人の気持ちを蔑ろにした」と自分を責めたのは、どこかに「向き合いたい」という思いがあったからこそではないかと思うのです。
 当たり前のことかもしれないけれど、手紙って、書いた人のものではなく受け取った人のものなんですね。このエッセイのビターな味わいで、そのことに改めて気づかされました。



 この小説には、毎年誕生日に届く亡くなった母親からのビデオレターと、それを見て沙織が書くお返事の二種類のお手紙が出てきます。そのお返事は、幼い頃には素直に書けたとしても、成長とともに変わっていきます。母親宛のようでいて、実は父親のために沙織は書いているのかもしれません。
 思春期にあえて手紙の時間軸を歪ませたことで、単なる感動物語ではない、ひとの感情の生々しさが立ちのぼってきます。
 ある意味一方通行の往復書簡は、最後に沙織が書いた手紙によって最初の2歳のビデオレターへとつながります。過去と未来が交錯した時間軸を最後の手紙でループさせたことで、メビウスの輪のように この家族の20年が完結したような不思議な感覚を覚えました。



「命と暮らしを守る責任」をひとりで背負うことになって、プレッシャーに押しつぶされそうだった10年前のverdeさん。
 当時の自分に宛てた手紙は「大丈夫だよ、安心して」というやさしい内容ではありませんでした。肩を抱くのではなく背中を思い切りぶっ叩くような、発破をかけることばの数々。
 力強く厳しい叱咤激励の向こうに、この10年間でverdeさんがひた走りながら学び、手に入れてきた人生の真理が垣間見えます。そのひとつひとつは、まるで真珠のよう。今も育て、増え続けるその真珠は、これからのverdeさんをよりいっそう輝かせていくに違いありません。



 まずタイトルに惹かれました。呼びかけと逆接。そして結婚祝いとルンバ。読む前から何となく楽しそうな気配が漂っていて。
 タイトルから予見したとおり、まずは部屋の汚さへのダメ出しから始まるのですが、軽妙な語り口と愛あるツッコミに、育った家庭の温もりが伝わってきます。
 もちろん個人差はあるのでしょうが、兄弟って姉妹と違って、大人になると一定の距離感を保つようなイメージがあるんです。その距離感を保ったうえで幼い頃から見守ってきた弟への思いを語っていて。ほろりとしたり笑ったり、まるで遠赤外線でじっくり温めるようなお手紙でした。



 手紙を「日記の抜粋」で綴るという発想が新鮮でした。商業作家の公開前提の文章でないかぎり、日記というのは極めてプライベートな記録です。
 手紙とは違って、誰かに読まれることを想定せずに書いた、行動と思考と感情の記録。それらを抜粋し娘の成長に合わせて時系列で並べることで、人として未熟だった青年が父親として成長・成熟していくさまが鮮やかに浮かび上がってきます。
 かつてはすべてが他人事のようだった彼のなかに、娘との時間を積み重ねることで揺るがない愛が芽生え、祈りを抱くようになる。その過程に胸が熱くなりました。



 この小説に出てくるのは「ノートの切れっ端」に書かれた たった一文の手紙です。
 でも、それだけではありません。最後のお弁当を詰めながら思い返す、娘とのこれまでの時間。初めてのお弁当、遠足の日のお弁当、運動会のお弁当・・・。作り続けてきたお弁当そのものが、主人公から娘へのお手紙です。
 少しでも栄養バランスのとれたものを、少しでも楽しく喜んで食べられるものを、少しでもリクエストに応えられるものを。愛情をお弁当箱にぎゅうぎゅうに詰めこんだお手紙は、応援と巣立ちの淋しさが入り混じって、とても せつない味わいでした。



 タイトルとヘッダー画像から連想した ほのぼの感を見事に裏切る、命と向き合う内容に、思わず居住まいを正しました。
 屠殺が始まる頃、実習室に充満している重苦しい空気。でも、解体を経てニワトリが鶏肉に変わった瞬間、その罪悪感は霧散していきます。人間って勝手な生き物です。屠殺解体実習の描写はとてもセンセーショナルで、わたし達が日ごろ都合よく忘れている「動物を殺し、その生命を奪って、食肉に変えて食べている」現実を突きつけるものでした。
 のら子さんの「今」につながる原体験。その場にいなければ知りえない貴重な感覚や湧き上がる感情を追体験し、改めて考えさせられたお手紙でした。



 緑風賞の発表は以上です。
 なお、賞金は1週間以内にnoteのサポート機能を使ってお贈りします。
ご参加いただき、ありがとうございました!

 明日は、みなさんに投票していただいた【読み手賞】の発表です。
 どうぞお楽しみに!



ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!