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悔しさも怒りも悲しみも通り越した絶望から歓喜の瞬間へ ー #TOD_23 から振り返る8月13日広島戦

 待ちわびてました。11月25日は #TOD_23 のライブストリーミングの公開日だったんですよね。
 ・・・とは言ったものの、その日はドラゴンズのファンフェスタ2023の当日。ファンフェスタに参加できる人も参加できない人も、ファンみんなが11月25日を楽しみにできるようなスケジュール設定。心憎いことするのね、ドラゴンズさん。
 わたしはファンフェスタ参加組だったので、昨日、TODを視聴しました。ひとことで感想をお伝えすると・・・いや、とてもひとことでは言えないや。ということで、ひさしぶりにnoteを書きます。


ところで、TODって なぁに?

 TODって なぁに?という方もいらっしゃることでしょう。TODとは「Truth of Dragons」の略で、中日ドラゴンズ公式がファン向けに制作した動画コンテンツのこと。報道カメラが入れないベンチの向こう側や選手のインタビュー映像等を通して、ドラゴンズの真実に迫るドキュメンタリーです。2022年春の開始当初はYouTubeで無料公開されていたのですが、現在では1回ごとの内容やボリュームが厚くなり、期間限定で有料配信されています。

 ドラゴンズファンにとって垂涎の映像だらけで、見れば毎回大満足なのですが、何しろアーカイブが残らないところが悲しいところ。昔の優勝DVDみたいに、見たくなったときにいつでも見返せたら、もっとうれしいのにな。
 岡田さんをはじめ制作担当者のみなさん、いつも楽しませてくださって、ありがとうございます! いつの日か、ドラプリの有料会員向けにアーカイブ視聴できる環境を整えてもらえたら、泣いて喜びます。

■【予告編】Truth of Dragons 2023 ロングver #TOD_23

 

 今回の配信期間は、2023年11月25日(土)~12月3日(日)です。視聴券は中日ドラゴンズ公式のこちらの記事から購入できますよ。

 

梅津と柳、対照的なふたりの共通点は

 メモも取らず、全編を視聴します。時にくすくす笑ったり、時に涙ぐんだりしながら、じっくりと。今シーズンの143試合は現地かテレビや録画やアプリでフルイニング観戦したし、おそらく公式YouTubeの動画も選手を取り上げたコンテンツは、ほぼコンプリート。だから、映像や選手の言葉が自分自身の感情の記憶と結びつく瞬間がたくさんあり、とても見ごたえがあります。

 最後まで見終わったときの感情は、何とも表現しがたいものでした。誤解を恐れずに言えば、ちょっと飲みすぎたときのような気分(お酒弱いから飲めんけどね)。
 感情が揺さぶられすぎて「この選手たちを勝たせたい!」「この選手たちと優勝したい!」という、もともと持っていた応援の熱さが昂ぶりすぎてしまい、コンテンツそのものの感想を冷静に言語化できなかったのです。

 こうやってPCに向かっているうちに、少しずつ頭のなかが濾過されていきます。最終的に残ったのは、トップアスリートたちの孤独な葛藤と奮闘に対するリスペクトでした。

 特に印象的だったのは、エピソード1。柳裕也と梅津晃大、ふたりの投手の物語です。
 半年かけて磨いてきた新球シュートを活かそうとした結果、シーズン前半は思うような投球ができず苦しみ、復調してきた後半は打線の援護がなく勝てなかった柳と、トミー・ジョン手術から1年半の月日をかけ、2023年夏に一軍復帰した梅津。
 光の当たる一軍で1年間ローテを守り続けた柳の立ち位置と、地味なリハビリを続けた梅津の立ち位置は対照的ですが、このふたりが語る心情の裏に、ある共通点を感じました。

 それは、焦燥感と孤独。

 カメラを通して彼らの言葉に耳を傾け、その時その時の彼らの心境に思いを馳せているうちに、暗闇のほとりに立って、彼らの抱える底なし沼をいっしょにのぞき込んだような気持ちになってきます。
 3万人の前で戦う以前に、彼らがより良いパフォーマンスを求めてずっとひとりで葛藤し、奮闘していたのだということが、痛いほど伝わってきました。エピソード3で登場する小笠原慎之介は「沼」というワードを口にしました。その表現は、TODに登場する選手たちが語る過去の心情に、とてもしっくり来ます。結果を出すことが使命のプロ野球選手だからこその、暗い深い底なし沼。

 一方で、沼でもがく彼らにも、一条の光が射す瞬間があるようです。勝利や技術の向上の達成感はもちろん強くまぶしい光でしょうが、指導者との約束や先輩選手のなにげないひとこと、家族とのかかわりなどのあたたかく包みこむような光も、彼らの言葉から感じました。

 

「弱いドラゴンズをもう終わりに」の行方

 選手会長の柳は、春のキャンプイン時に自らチームを鼓舞しました。

「この弱いドラゴンズをもう終わりにしよう。応援してくださるたくさんのファンのためにも、自分たちでやってやろう」

 その言葉に目頭が熱くなったことを今でもはっきりと覚えています。思わず付いていきたくなるようなリーダーシップを目の当たりにして、わたしは柳のユニフォームを注文しました。2023年のドラゴンズは「柳のチーム」だと感じたからです。

 TODには、柳の2023シーズンを象徴するかのような、ある試合の映像が使われています。先発の柳がノーヒットノーランを続けていた8月13日の広島戦。
 8回裏のマウンドに上がったのは、カープ・栗林投手。彼の前にドラゴンズの下位打線は手も足も出ません。三振・三振・ショートゴロで三者凡退。唯一、栗林の球を前に飛ばしたのは9番打者だった柳だけでした。
 8回裏を終えて両チーム無得点。ただ応援しているだけのわたしでさえ、緊張でうまく息ができずに吐きそうだったのだから、選手たちはどれほどの重圧を感じながらプレーしていたことでしょう。

 9回表のマウンドに柳が向かう直前、場内に響き渡ったのは、日ごろ柳が使っている back number ではなく、思いがけない曲でした。

蹴破れ! その扉 プライドなど投げ打って Dead or Alive
勝つまで
立ち上がれ 上がれ 恐れずに前へ
走れ 走れ ぶっ倒れるまで

湘南乃風「黄金魂」

 この映像を見た途端、涙でTODの映像がゆがみました。この試合、わたしはひとりで現地にいて、まさにこの瞬間、あふれる涙を応援タオルで拭いながら祈っていたからです。

 柳を勝たせたい! 雄介さん、どうか力を貸して…!

 試合結果はもちろん知っているのに、まだ両チーム無得点だったあの瞬間の気持ちがあざやかに蘇ってきます。

「黄金魂」は、故・木下雄介の登場曲。柳と同期入団だった木下雄介は、2021年夏、練習中に倒れてそのまま帰らぬ人となってしまいました。
 柳のノーヒットノーラン達成がかかっていたあの9回表のマウンド。それぞれの場所で試合の行方を見守りながら、あの曲を耳にして、柳の並々ならぬ思いを感じたドラゴンズファンは、わたしだけではないはずです。

 球場全体が異様な空気に包まれるなか、柳は四球のランナーは出したものの、9回表もノーヒットに抑えてマウンドを降りました。前年に現地で見た、大野雄大の10回パーフェクトながらも完全未遂となった試合が、脳裏をかすめます。(そのときも球場にいたのです)
 力投した柳にサヨナラ勝利を!という必死の祈りも届かず、9回裏のドラゴンズの上位打線からの攻撃はあっさり三者凡退。あぁもう誰でもいい、ドカーン!と一発、レフトスタンドへ放り込んでよ!

 延長10回表、ライデル・マルティネスがマウンドに上がった時点で、柳の勝ちはなくなり、ノーヒットノーラン達成も幻となりました。しかも、あろうことか、絶対的守護神のライデルがカープ・堂林からホームランを打たれ、まさかの失点。

 顔を上げると、1塁側のドラゴンズのユニフォーム姿の観客が続々と席を立っていくのが見えます。何と言えば伝わるでしょうか。「無」です。何も考えられない状況のなか、心に何かが広がっていきます。ホットミルクの薄い膜のような、静かな絶望。

 シーズン143試合のうち、絶対に落としてはならない試合がいくつかあるとすれば、この試合は間違いなくそれだったはず。大切な試合に競り負けるチームは弱い。
 柳がみずから先頭に立ち、よく守った野手たちとともに9回までノーヒットピッチングでカープ打線を制圧してきたにも関わらず、弱いドラゴンズは…弱いドラゴンズは終わりにできなかった。
 
 悔しさも怒りも悲しみも通り越した絶望が、そこにはありました。
 あのとき観客席で、わたしも暗い底なし沼をのぞいていたのかもしれません。

 

これ以上ないほど暖かい、柳のひとことに

 試合はその後、10回裏に石川昂弥がホームランを打って同点に追いつき、続く宇佐見真吾が奇跡の二者連続ホームラン! ライト方向へぐんぐん伸びていく放物線を下から見上げながら、全身の肌が粟立つのを感じました。思わず腰が浮いてしまいます。その球は、ドラゴンズ応援団のいるライトスタンドへ飛び込みました。
 アベック弾で劇的サヨナラ勝利! 球場中のドラゴンズファンは総立ちです。
 わたしの席は真っ赤に染まるビジター応援席にほど近い、カープファンに囲まれた3塁側。赤いユニフォームの頭上を越えて2列前のドラゴンズファンとハイタッチを交わし、歓喜の涙をこぼしたのは、初めてのことです。急いでスマホを取り出し、スコアボードの写真を撮りました。

 試合後のヒーローインタビュー、お立ち台に乗れる人数は多くて3人です。サヨナラの立役者となった石川と宇佐見、そして26試合連続安打で球団新記録を達成した岡林勇希が呼ばれました。やっぱり勝ちがつかないと呼ばれないのか…と落胆しかけたそのとき、back numberの「sister」が流れ、ドームは割れんばかりの歓声と拍手に包まれました。ベンチから軽やかに出てきたのは、もちろん柳裕也です。

 マイクを渡された柳は、満面の笑顔で、高らかに言いました。

「みなさんの大声援のおかげで、ノーヒットノーラン達成できました! ありがとうございました!」

 1mmの迷いも感じない力強いこのコメントに、どれだけのファンが泣き笑いしたことでしょうか。打てなかった野手陣、打たれた守護神ライデルを救う、これ以上ないほど暖かい、自虐のひとこと。わたしも3度目の涙を流しながら、声を立てて笑いました。
 ノーヒットノーランの記録は達成できなかったけれど、あの試合を球場やテレビの前で応援していたファンの記憶には、ノーノー柳が刻み込まれたはずです。

 後から、柳がヒーローインタビューへの参加をみずから志願したことを知り、またもや胸が熱くなったのを覚えています。

 最高かよ、柳!

 

TODを通して、選手の心の内側を覗いたら

 ファンとして応援しながら、ドラゴンズに伴走してきた2023シーズン。締めくくりは、ファンフェスタとTODでした。
 TODでは全編に渡って、試合に出続けながら苦しいシーズンを戦い抜いた選手たち、怪我に苦しみながらも一軍の舞台に戻ってきた選手たち、そして他球団で出場機会を得られず現役ドラフトで移籍してきた背水の陣の選手の心情を、対談やていねいなインタビューを織り交ぜながら描いていました。

 日本野球の最高峰、NPB。この舞台で戦うドラゴンズの選手たちの、知られざる焦燥感と孤独、そして彼らが内にみなぎらせた闘志と来季に向けた覚悟を、まざまざと見せつけられた気がします。
 こんな思いで自分自身と闘い、ライバルと闘い、相手チームと戦ってきたんだね、みんな。胸がいっぱいになるよ。
 野球の技術や身体能力はもとより、TODを通して彼らの心の内側をそっと覗かせてもらったことで、よりリスペクトの気持ちが強くなったし、よりいっそう彼らを応援する気持ちが高まりました。

 チームが弱かろうが強かろうが、ドラゴンズを応援する気持ちに変わりはないし、「わたしはダメなファンだから、勝ちにはこだわらない」なんて書いてきたけれど、選手やスタッフたちには笑顔でいてほしいし、米騒動みたいなネットのおもちゃにされるのはもう見たくない。
 だから、来季はたくさん勝ちたい。勝ってほしい。
 そう、改めて思いました。

 来季も全力応援するぞ!と、固く心に誓った晩秋の夜更け。
 あーもー、目が覚めたらキャンプインしてないかなぁ。
 春、待ち遠しいよね?
 
 

 

 


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