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「ゆっくり」の効力

まずは背筋を伸ばして、胸を張ってアゴを引いて…そう…自信たっぷりに見えるよう姿勢を保って。常に笑顔を絶やさないで。せかせかと動いてはダメ、心の焦りは動作に現れるの。ゆっくりと動き、ゆっくりと喋る

『アルテ』3巻

『アルテ』は、ルネサンス後期を舞台に元貴族の女の子・アルテが画家を目指す物語だ。これは、アルテが師匠レオのパトロンである大商人・ウベルティーノと交渉するための術を、高級娼婦・ヴェロニカに学ぶシーン。ヴェロニカはこう結んで、仕事への姿勢を教示する。

高い対価に見合った満足を与えられるという自信を持ちなさい

同上

多くの男性と駆け引きをするヴェロニカは、美しく気高く、色気に満ちている。関係を掌握する力がある人物だ。漫画にモーションはないけれど、この台詞を読んだとき、ヴェロニカをそう見せているのは、この立ち振る舞いだったんだなと思った。お金や美貌、教養を手にするだけでなく、動作に意識を向けることの大切さを感じたシーンだった。

この後、ヴェロニカの教えを実践し、“貴族らしく”振る舞うことができたアルテは、偏屈な(このときは)ウベルティーノに要求を通すことを叶える。

ここから第1話読めるみたい。

現実でもわたしが「大人〜」「かっこいい〜」と感嘆してしまう人たちは、みんなどこかゆったりとした雰囲気があった。仕事で出会う人、駅ですれ違った女性、カフェの店員さん……。人となりを一切知らなくても、年齢がいくつであっても、身につけているものがなんであっても、「かっこよくて美しい人」のオーラはひと目で分かる。彼女たちは間違ってもバタバタ走ったりしないし、ガタガタと物音を伴って動いたりもしない。ダラダラするのとは違う、強くて大きな「遅さ」を身にまとっていたと思う。

一方。わたしは、いつでもちょっとせっかちだ。急いでないのに、間に合いそうなら早い電車に乗りたくて小走り。急いでないのに、青信号の残りが3つなら小走り。自動ドアの1mまえで手を伸ばしてしまうし、エスカレーターは右側を歩いてしまう。冷蔵庫のドアはバンッと鳴ってしまうし、今朝も電車でゴトンッと携帯を落とした。……なんてかっこ悪いんだろう。どたばた焦って動くわたしにエレガントさは宿らないし、自信や頼もしさも生まれない。

ただゆっくり動くだけだ。それだけで威厳たっぷりに見えたり、自信がうかがえたり、余裕ある風を演出できる。ゆっくり話せば、会話のペースを持てたり、相手の言葉をしっかり聴いている姿勢を示せたりするだろう。外目に引っ張られて、中身が伴っていくこともあるかもしれない。ちょっとした心がけを信じて積み重ねることで、人の印象は形作られるのだと思う。

頭ではこんなに理解しているはずなのに! 今すぐ実践できる簡単さなのに! つい、せっかちが顔を出す。20数年染みついた気質はなかなか消えてくれないらしい。いつか、わたしも「余裕のあるかっこいい大人」になれる日がくるのだろうか。はたまた年老いてもちょっとせっかちなのか。……それは嫌だなあ。

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今日のテーマは「ついつい、やっちゃうこと」。ダメとわかっちゃいるけど、やめられない、自己反省を込めたメッセージ、でした。


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