データの取り扱いを巡る個人データ保護関連規制と公正な企業間の競争を促す為の法規制との関係性について

今回は完全なる個人的なメモです。

1.  背景

事業活動におけるデータの収集・利用の重要性が高まってきている。製造業が産業をリードしていた時代は(90年代までは)、データは新製品の開発や、生産・販売方法の改善、マーケティングの効率化等に用いられる程度だったが、今は、IoTの普及やAI関連技術の進展により、人手を介さずに収集・活用されるデータが飛躍的に増大し、新サービスの研究開発にも利用される中間投入財としての利用も出てくるなど、データ獲得競争とも言い得る状況が生まれるケースも出てきている。

一方、データの独占的収集は、ネット事業の特性でもあるネットワーク外部性(利用者を増やすほど魅力が増し、他のサービスとの差別化につながる特性)から、競争上の優位性の源泉となるものの、一度確立した優位性を、間違った方法で維持しようとすると、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」と認定されるリスクや、不正競争防止法違反となるリスクが顕在化してきている。

2.  関連動向

2016年 5月 独仏 「競争法とデータに関する共同報告書
この共同報告書でデータと競争法上の様々な論点が抽出され、日本でも議論が開始される契機となる。

2017年 6月 日本 公取「流通・取引慣行ガイドライン」が25年振りに改正。
プラットフォーム事業者が行う垂直的制限行為による競争への影響について、プラットフォーム事業者間の競争の状況や、ネットワーク効果(注)等を踏まえた市場における地位等を考慮する必要性について言及される。
また、公取が「データと競争政策に関する検討会報告書」を公表。

2018年12月18日 日本 経産省・公取・総務省が「プラットフォーマ―型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を同時発表。
データを巡る競争法(独禁法)との関わりについて、欧州とともに日本が早い時期から着目し、議論を進めている状況。

2019年 2月 欧州議会、欧州理事会、欧州委員会 「オンライン・プラットフォーマーの透明性・公正性促進法」について合意成立

3.  今日現在の結論

日本において「データを独り占め」が独禁法上問題になるのかと言えば、原則問題にならない。理由は、利用者の利便性を追求する為の事業上のデータ収集は競争促進的な行為と見做されるからである。

「共同での情報収集」も、カルテルとなることを心配する必要はない。データの収集自体は事業者間の協調領域と見做され、競争領域は、集めたデータの活用段階(製品やサービスの開発段階)であるからである。データ活用段階において、例えば事業者間で最終製品の販売価格の合意形成がなされるような事態になると、事実上のカルテルと認定され問題となる可能性は出てくる。

事業者間(BtoB)の競争において、自ら収集・集積したデータを外部に開示するかどうか、開示範囲をどこまでにするかの判断は、基本的に事業者の裁量に委ねられる(取引自由の原則)。但し、限定的ではあるが、法的に問題とされるケースはあり得る。特定企業が、既に特定市場において市場支配力を有しており、同市場での事業活動を通じて収集するデータが、同市場での事業活動に不可欠で、かつ代替的な手段が技術的・経済的に困難な場合に、競争相手の排除以外の合理的な目的がなかったり、データを開示すべき根拠があるにも関わらず競争相手への開示を拒絶したりしたような場合には、不正競争防止法上、問題とされることが考えられる。

消費者向け(BtoC)事業では、プラットフォーマ―が消費者に対して、サービスの利用を継続しようとした場合に、個人情報の利用目的を事実上拒絶できない状況を作りだして、同意を取得した場合には、独占禁止法上、不正な同意の強制として「優越的地位の濫用」と認定される可能性が考えられる。

上記の考え方については、日本では現状、公正取引委員会にて議論が進められている段階であるが、欧州においては実例が出てきた。
2019年2月、SNS市場で支配的な地位を持つFacebook社が、同社以外の情報源から収集した利用者や機器の利用データを、同社が持つ個人データと統合したことは、同社の「市場支配的地位の濫用」を構成すると、独カルテル庁が認定。
判断根拠は、同社が処理の法的根拠としていた「データ主体の同意」は、GDPR上、同社の持つSNS市場での支配的地位を基に利用者に強要したもので、任意性に問題のある「無効な同意」であるからである。
GDPR上、法的根拠のないまま個人データを扱っていたこととなり、GDPR違反を構成するのみならず、同意の任意性への疑義に、競争法違反が使われている構図となっている。

4.  まとめ

GDPR違反だけでは、データ保護当局から指摘事項を全て遵守すれば最終的にはGAFAを追い詰めることが出来ないと判断した欧州当局が、直接、「市場支配的地位の濫用」を構成要件とする競争法違反を持ち出してきていると考えると、データと競争法も巡る動きを理解し易い。今後、欧州での個人データ取り扱いを考える上での参考にもなる。

しかしながら、日本国内においては、本人同意は最後の手段とするEUとはスタンスが大きく異なり、EUの動きがそのまま公正取引委員会の判断に影響を及ぼすかは疑問が残る。公正取引委員会の今後の動きを注視すべきだろう。

以上

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