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【GDPR】EUによる日本の十分制認定と今後について(4)

GDPRは、個人データを厳格に取り扱うよう定めた規則ということなので「EU市民の個人情報を取り扱う際には特別な注意が必要だ」と思っている人も多いのではないでしょうか?

GDPRは「発生地主義」

GDPRの規則上に「発生地主義」という言葉こそは出てはこないが、「処理」と「移転」についてGDPRが求めているところを噛み砕いて行くと、EU域内(厳密にはEEA域内)から域外の「移転」を原則禁ずる前提として、域内にいる人の国籍については問うていないことが分かる。

なお、EEAとはEuropean Economic Area(欧州経済領域)のことでEU加盟国28ヶ国に、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの3ヶ国を加えた地域を指す。

ことをややこしくしているのは英国のEU離脱(ブレグジット)で、今年3月29日に英国は、当該地域から外れ、第三国となる。

さて、GDPRによる個人データの域外移転禁止とは、要はEU当局の法的な効力の及ばないところに持ち出すなということであって、どこの国の人に関する個人データなのかは問題にしていないのである。

よって、EU市民に関する個人情報であっても、日本で取得すれば日本法に基づく個人情報として取り扱えば良く、逆に日本人であっても欧州にいる時に取得した情報は、EU個人データに該当する。ここで面倒くさいのは、日本に入国する前に取得した個人データはGDPRの適用範囲であるということで、理屈の上では入国後に入手した情報とは区別しなくてはいけないことだろう。取り扱う側からすると、実務面では何の意味もないことなのだが。

なんとも不思議な世界ではあるが、このような発生地で区分けする建て付けにしている理由は、大きく2つあると考えられる。

1つはGDPRが基本的人権というEUの価値観を出発点にしていることである。神の下での人の平等を説くキリスト教的価値観では、国籍で区別することは価値観的に矛盾してしまうのである。

もう1つは、真の狙いが「個人情報」ではなく機械的に自動収集される「個人データ」の方にあるからである。

現在は、データ価値社会と言われ、単に個人情報に値段が付くというだけでなく、個人データを継続的に入手出来る仕組みを押さえた者が、今後の世界を支配出来ると考えられている。ビックデータしかりAIしかり、根幹には人の行動や志向に関するデータを集め分析することよって、経済的な価値を生む効率的なマーケティング等が可能になり、選挙直前にフェイクニュースを特定の志向を持つ人に送り付けることで「民意」を操ることが出来る世界に既になっているからである。

さらに集めた膨大な個人データを本人の預かり知らぬところで使って莫大な利益を得て置きながら、タックスヘブンを使い、殆ど税金を納めないグローバルITプラットフォーマー達に何とか鉄槌を下したいというのが、EU当局の本音なのだ。

ITプラットフォーマーとは即ちGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)のことで、全てアメリカ企業である。GDPRとは人権保護とは名ばかりの、実態は、EU(その中でも特に強硬姿勢を示すフランス)によるアメリカ排斥運動なのである。

GDPRに準拠した「製品」は存在しない

このように考えてみると、GDPRに対応した「製品」や「サービス」なるものが技術上の問題としては存在しないことが理解出来るだろう。GDPRは、個人データを利用目的に沿って適切に取り扱うことを求めているだけで、セキュリティ対策の向上に繋がるような何らかの具体的な「規格」を定めてはいない。また、いくらWebサイト上にGDPRに対応したプライバシーポリシーを掲げても、個人データを第三者に説明出来るくらいの透明性を確保してハンドリング出来ていなければ、GDPRに対応したことにならない。GDPR対応と名を打たれたそれらしいものを「導入」すれば済むということでは残念ながらないのである。

「本人同意」は万能ではない

日本の個人情報保護法では、個人情報を取得する際に本人同意を取り付ければ、問題ないのだが、EUの個人データを取扱う際には本人同意があっても問題がある。

それは、いやでも同意の撤回が可能という「撤回権」が基本的人権の一部として保障されているからである。

その為、GDPRに詳しい弁護士に相談すると、日本人的感覚とは正反対の答えが返って来る。即ち、「同意は取るな」というのである。

その代わりに、いつでも撤回可能な同意ではなく、一方的な「情報通知」を行い、同意ではなく「諒解(acknowledge)」したことになるよう、言葉遣いには細心の注意を払うよう指導されることになる。

人権保護の先進地域で広がる、企業弁護士による人権無視の為の助言が繰り広げられるという、悲しい状況を生んでいるのが実態なのである。

(5)につづく

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