優先席と私

愚痴です。

優先席。

今まで、ただ、自分が座るところじゃない、というイメージで、全く視界に入れてなかった。座ったことがないし、行かないエリアだから、どんな人が座っているか、見てなかった。

つわりがある頃から座りたくなってきて、勇気を出して、カバンの中に隠していた妊娠マークをぺろっと出して、たまに座ることがあった。「電車の中は、妊婦に冷たい」と周りから聞いたり、ツイッターで見ていたので、少し怖かった。

そして、お腹が目立って大きくなってきた頃から、立っているとお腹が張ってくることがあり、「お腹が張る=早産につながる可能性があるから、お腹が張った時は安静にしてください」と医者に言われたので、もう遠慮せず、優先席に真っ先に向かうようになった。

優先席に座れる可能性は半分くらいだった。大抵誰か座っている。それで、座っている人を見るようになった。

お年寄りが多いけれど、そこに混じって、20代前半くらいの男性が一人で端によく座っていることが多いことに気づいた。スマホを見ていて、ゲームをしていたり、漫画を読んでいたり、寝ている。なぜか、歯磨きをして、通話している人もいた。シュッとした、清潔感のある、今っぽい人たち。

外見からはわからなくても、何か不健康な状態なのかもしれない。と思うようにしていた。でも、電車に乗るたびにほぼ毎回見かけるので、気分が優れない時は、はらわたが煮えくり返るようになった。妊娠マークを付けていても譲られない。気づかない。というか、スマホだけを見て、シャットアウトしている感じ。

優先席に座っていたら、隣の人が、寿司を食べ始めたこともあった。匂いで気持ち悪くなった。私はこういう時、相手に言えないのだけど、今までの蓄積で、思わず、「ここはいつもの健康状態ではない人が座る席なので、他のところへ行ってください」と震えながら言った。もし殴られそうになったら、腹を守るぞ、と心の中で決心しながら。そうしたら無言で食べるのをやめて寿司をしまい、普通の席が空いたら、サッと移動していた。

途中から、優先席の前で、譲られるのを待って立っているよりも、普通の席の方に移動した方が、譲ってもらえることが多いことに気づいた。

20〜50代くらいの女性、50代くらいのおじさまサラリーマン、30代のツーブロックのサラリーマン。坊主で、野球少年という感じの男子高校生が緊張した様子で迷いながらも譲ってくれたこともある。嬉しすぎたのか、譲ってくれた人の顔はだいたい覚えてる。涙が出たこともあった。

自分はどうだったろうか。妊婦って見かけた記憶がない。

会社勤めをしていた時、大抵終電帰りだったけど、優先席には座らないものの、常に疲れていて、いつも寝ているか、スマホに夢中なふりをしていて、シャッターを下ろしていた。「こんなに疲れているんだから!」とストレス満々だった。周りは見てなかった。周りを見なければ、気づかなかったという大義名分ができる。優先席に座っていた20代の男性たちも、そうなのかもしれない、と思った。

他人に、席を譲る人はすごい。ちょっと勇気いる行動だと思う。私もそうなりたい。

で、臨月直前の頃。

「子宮頸管が短くなっている気がする(切迫早産につながる可能性が少しある状態)」と医者に言われたので、ますます座りたかった。

ホームに電車が入ってくる時、緊張するようになった。座れるか、座れないか。

優先席に行くも、50代くらいの女性が最後の1席に座って満席に。肩を落とした。

そしたら、ベビーカーを持ち、幼児と自分が座ってた母親が席を立って、私に席を譲ろうとした。慌てて、何度も「大丈夫です!」と言ったけど、「どうぞどうぞ。大変ですよね」と言って結局譲られた。幼児は、母親が立ってしまったのでちょっと心細そうに母親を見ている。その隣の50代くらいの買い物袋を抱えたおばさんは目をつむっている。向かい側の優先席には、50、60代くらいの男性と、20代前半くらいの男性が座っている。なぜ、譲らなくていい人に譲ってもらってしまったのか。なんでこうなのか。なんでなんで。なんだか、泣けた。

妊娠してから、国からも、社会からも、歓迎されている感じは受けたことがない。

もちろん、友達や家族など周りの人は祝福してくれるけども、国は、少子化を本気でどうにかしたいとは全く思ってないんだろうなと、実感するようになった。

妊娠した時に、「妊娠は、病気じゃないですから」と医者に言われて、妊婦検診が自費だという説明を受けた。確かに病気じゃない。でも、体感的には、乳がんの治療を思い出した。放射線治療中の体の状態に似ている。体力が落ちていて、疲れやすく、ぼうっとする。いつもの健康状態ではない。何より、生命が体内にある、という緊張感があって、いつもなら休まない程度の体調不良でも、意識的に休むようになる。仕事ができる量は、通常の7割くらいになる。

妊娠中、ずっと、小さなトラブルが形を変えて起こる。

小学生の時に治ったはずだった小児喘息がぶり返した。妊娠すると体質が変わって子供の頃の病気がぶり返す人もいるらしい。苦しくて、一晩中、体を起こしたまま寝た。仕事ができない、間に合わない、と思ってイラつき、でも、赤ちゃんがいるのに仕事の心配ばかりする自分てひどいな、とも思って、涙が出た。

夜何度も目が覚める、頻尿、腰痛、お腹の張り、便秘、便秘からくる腹痛、免疫力が落ちて薬が飲めないから風邪になると2、3日動けなくなる…地味なトラブルの連続。

妊娠中でも、こんな、いろいろあるんだね。子ども産んでる人、みんな、すごいよ。と、周りの友人たちや子どもを連れてる人を見て、つくづく思うようになった。

保育園に入れるかも、妊娠する前から不安がある。いろんな人に聞いて勉強し、子どもセンターや区役所に行って話を聞き、産む前から保育園を見学をし、認可保育園に入れる可能性は五分五分と言われた。

なんでこんなシビアなのか。子どもは国力じゃないのか。

結婚して、子どもを持つということに、個人の勇気や、賭けが必要。安心感がない。そりゃあ、結婚する人減るよ。重いよ。怖いよ。私も、今、怖い。

「最低3人は産んで」とか、そういうニュースを見るたび、そのような発想をする人を、宇宙人のように感じる。

先週、夫と入った洋食屋のおやじに、「若いもんが、世の中背負って頑張ってくれよ!」と言われて、「では、背負える環境を整えてください」と心の中でつぶやいた。

妊娠中で感情的になってるかもしれないけど、今思うこと。メモ。

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