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見えない付点二分音符を押してみる

ブラームスop73の第2楽章の第1主題を作曲者本人は「自身の生涯で1番美しい旋律だ」と言ったとwikiに書いてあったが、いかにもブラームスらしい。とにかくこの旋律を正しい位相で把握するのは難しい。さらにその位相をわかるように伝える演奏は難しい。

だが、この美しい歌の呼吸、脈動をこれほど見事に楽譜としている姿を、特にその開始を支えるアウフタクトの位置のみごとさを見ていると、この「楽譜」という技術方式の持つ情報量の凄さを感じる。それは芭蕉のいくつかの見事な俳句と同じように、もうこれ以上の表現を必要としないくらいの見事な「その場」の空気感を伝えるものはない。

その開始はアウフタクト開始、4拍子の4拍めにある。それがあたかも1拍めに聞こえてしまっていたころの自分は、まさに音しか聞いていないからだと言うしかない。

このアウフタクトは、そこに突然発生するわけではない。そのアウフタクトの前には書かれていない付点二分音符がある。付点二分音符と四分音符という小節の付点リズムがこの音楽を支えている,
そして、この根幹的な脈拍を分母とする小節の3拍子がこの主題の原子のような単位となっている。さらにこの主題はその原子を単位とする大きな4拍子としてひとつの歌を括っている。

①012|②345|③678④91011|①12…

この動きは例えば低音パートの動きに注目している捉えることができるだろう。僕自身は、この把握の練習として二つ振りで数えることをやってみた。そうするとアウフタクトを立ち上げるための0小節めの振り始めに押し下げる空気の大きさを感じた。そう、それが見えない付点二分音符なのだ。その見えない付点二分音符を実感できるとこの楽譜に記されている音符たちが音楽として立ち上がるのを実感できる。それを4つ振りに直して、0小節めの見えない付点二分音符の重さを意識する。それを予備振り1拍で表現できるようにする。不器用なので、そんな過程に長い時間かかった。しかし、それはこのアウフタクトを自分のものにするためにとても役立つものだった。

この見えない付点二分音符を押すことで得た感覚は、この主題の歌を浮遊させる不思議なツボでもある。静かだが熱いゆったりとした不思議なくグルーヴ感がそこに表れる。ふわりと浮き立つその美しさ。楽譜に押し込められた音楽が立体感を持って自分の目の前に現れてくるのが実感されるのだ。

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