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#13 父の書斎

「お父さんの書斎を空っぽにすることが目標です」
片付け当日前に上の弟にLINEを送っておいた。
具体的に伝えておかないと、私自身も当日だらけるよなと思って。

5畳程度の父の書斎。
通りに面した2階にあり、窓からは目の前の小さな公園の樹々が見え日差しもよく入る。こどもたちのはしゃぎ声が聞こえるのも個人的には好きだ。
窓の反対側の壁一面は本棚になっていて、上の弟は新築当時かなり羨ましがっていたと母から聞いたことがある。

その空間が、書類と書籍で身動きできないほど埋まっている…。
ふたつあるデスクのうちの一つだけが、かろうじてノートPCとモニター用に確保されており、私が時折リモート勤務に使う。

(この埃まみれの中で仕事すんの、ホントにきついのよね…そもそもアレルギー体質だし…)
でも今日片付けられれば、次からは少しは快適に仕事できるはず!

朝10時過ぎに着いて早々に作業を始めた。母が「ちょっと休憩してからでいいわよ、H雄もまだだし」と軽く驚いていたけれど、「いや、こういうのは勢いが大事だから」とマスクをつけ軍手をはめてちゃかちゃかと始めた。

走り書きやメモ、過去の原稿…保存状態がいい画集や思い入れのある書籍を残し、それ以外は原則廃棄。

しばらくして到着した弟は、現状を改めて見て「これをすべて今日中に片付けるというのは…」と絶句していたので、「できるところまででいいよ。できるかぎり進めようって意識で」と手を止めず顔を見て言ったら、微妙に観念した様子だった。

姉と弟の力関係は年齢重ねても変わらないらしい。

弟、面白かった。作業開始前は、「これとこれは**さんに保存をお願いしたら?」とか「とっておくものの選別基準は?」と母に確認していたのに、いざ作業を始めると「とりあえず全部捨てよう」と瞬時に変わっていた。

ふたりして黙々と、古くなった文書やメモ、時間がたちすぎてくっついてしまった写真、ほぼ読めないハガキ…などなど、ありとあらゆる紙をゴミ袋に放り込んでゆく。
よくもまぁこれだけの紙をため込んだよね…でも、お札一枚もないよね…
(※以前片付けの会社にいたとき、実家整理の依頼で必ずと言っていいほど言われたのが「現金さがしてください」でした)

夕方近くになった頃、弟が「もう、今日やっちゃおう、もうあと少しだから全部片付けちゃおう」と自身に言い聞かせるように呟いた。
「そうだね、もうあとちょっとだから」

17時をまわった頃、最後に掃除機をかけて本棚をもう一度水拭きして、父の書斎は見事に空っぽになった。

翌日、母からのLINEにはこうあった。

「今朝、ドアを開けてスッキリした空間を見た時、新築当時を思い出して本当に気持ちがよかったです。カーテンを開けてひさしぶりに陽の光を入れました」

こういう言葉をもらえると、疲れは吹き飛ぶよね。
三十代半ばまでいろいろこじらせていた親子関係なので、少しは役に立てるといいなと、ようやくこの頃思えるようになったから。

実家の片付け、弟夫婦が同居をスタートできるまであと少し!





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