〈偏読書評〉思いやりの心と情操を養う、良書としてのBL漫画【後篇】

-- 以下〈偏読書評〉、2016年4月30日投稿の加筆修正版 --

皆さま、ゴールデンウィークをいかがお過ごしですか? 私は気がゆるんだせいか連休初日早々、寝込んでおりました。どうも歳をとると気圧に体調が左右されますね。どうか皆さまも、お気をつけください。以上、ひきこもりの(どうでも良い)近況報告でした。

さて、前篇につづいて羽生山へび子先生の作品紹介です。前篇では最新単行本の『きゃっつ 〜四畳半ぶらぶら節〜』(大洋図書刊)をご紹介しましたが、後編では先生のデビュー作である『僕の先輩』(大洋図書刊)のご紹介です。

はい、では早速ですが出版社のサイトからの、あらすじ引用です。

「僕ぁ 愛のハゲタカだよ! 先輩が消耗するの待ってるんだ!!」
自称・愛のハゲタカこと飴宮はじめは、学校中から恐れられている先輩、二宮三郎に猛烈アタック中。ハイエナよろしくつきまとうはじめにウンザリ顔の三郎だったが、一途で真っすぐな体当たりの告白に気持ちはガッチリ仕留められた!? 笑って、ヘコんで、ご飯を食べて、一緒にすごした今日はとっても幸せだ! 羽生山へび子の初コミックス登場!!

「あ、〈愛のハゲタカ〉ってなに……っ?!」とポカーンとしている人もいるでしょう。うん、きっといる、絶対いる。このブッ飛びつつも、主人公・はじめの全てを象徴するキメ台詞は『僕の先輩』の2ページ目に登場するもの(というか、この台詞しかない)。

表紙に描かれているはじめと三郎(通称〈せんぱい〉)の姿は、かなりデフォルメされているのですが、サンプル画像を見てもらうと分るように作中はリアルな姿。

この強面のヤンキーである〈せんぱい〉の巨体に(しかもシャツのボタンは常に全開)、かわいい昭和アイドル的な顔をした小柄なはじめが、件のキメ台詞を放ちつつ(しかもハァハァしながら)飛びついている1ページ裁ち落としコマの強烈なインパクトに、僕ぁ心をがっつりと奪われちゃったんですよ。そして作品開始2ページ目にして読者の心をガッツリと掴む羽生山先生は、天才なんじゃないかと思いましたね、えぇ。

しかも、さらに驚かされたのは「2度目にネームがボツになった時点で原稿締め切りまであと1週間くらいで。でも、諦めたくなかったので、次の日までにいちから違うマンガに描き直して、それが『僕の先輩』の第1話です」という事実! 天才や、まさに天才や……っ!!

このことを知ったのは(あと上記の引用元は)、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』で連載されている溝口彰子さんによる連載『BL進化論〜対話編〜』の「第9回 マンガ家 羽生山へび子さんとの対話(前編)」を読んででした(※現在、サイトでの記事公開は終了。対談記事は『BL進化論[対話篇]ボーイズラブが生まれる場所』(宙出版刊)に収録)。ちなみに溝口彰子さんは『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版刊)の著者でもあります。

また後編の対話では『きゃっつ』について色々と触れられているので、単行本の購入を迷われている人はぜひ併せてどうぞ(それと羽生山先生の自画像、Tシャツに描かれている何ともチャーミングな表情のキャラは『きゃっつ』に登場するタヌキの〈まる〉。この〈まる〉のエピソードが、これまた泣けるので、ぜひ単行本を……っ!!)。

さて『僕の先輩』ですが、キャラクターが『きゃっつ』と違って人間ということもあり、BL慣れしていない人には正直抵抗があるかもしれません。とはいえセックスシーンも全篇を通して1回だけ(しかも少女漫画のような爽やかさで生々しさは皆無)ですし、「頭のネジをひとふたつどこかに忘れて来たような」登場人物たちのキャラが何ともチャーミングなので、意外とBLを初めて読む人でもするりと読めてしまうかもしれません。

というか登場人物たちのキャラ設定もそうなのですが、台詞はもちろん、ページのあちこちに散りばめられた小ネタが、これまたいちいち気が利いたものなので、その面白さのあまりにBL作品だということなんぞすっかり忘れて、するりと読めるんじゃないかと。

それと特筆すべきは、なんとも美味しそうな食べ物の描写!! 〈食べ物を美味しく描ける作家さんにハズレなし〉と私は考えているのですが、はじめのバイト先である〈おふくろ弁当〉のお惣菜にしろ、第4回ではじめが口をソースまみれにして頬張る謎の〈天丼バーガー〉にしろ、もう何もかもが美味しそうなんですよ……っ!!

もうね、「YOU!! 福田里香さんの『まんがキッチン』(文藝春秋刊)の続刊が出るなら、絶対に登場させてもらいなYO!!」って言いたくなるくらいに(超余計なお世話)。(※その後、『まんがキッチン』の続刊である『まんがキッチン おかわり』(太田出版刊)が刊行されましたが、羽生山先生の作品は登場せず……ショボーン……)

……なんか、個人的な萌えポイントの列挙となりつつありますが、肝心のストーリーも言うまでもなく素晴らしいです。もう恋するはじめの暴走っぷりは言うまでもなく、忠犬ハチ公もびっくりしちゃうほどの健気で真っ直ぐな言動が、もうたまらないのですよ。「あぁ、大人になって無くしてしまったものを、この子は全部持っている……(遠い目)」と思ってしまうほどに。

好きな人の部屋に初めて行ったとき、台所の流しや洗濯物を見ただけで「パラダーイス!!」と心の中で(ハアハアしながら)叫びつつ、茶碗を歯ブラシで〈チーン〉と叩いて喜べる(興奮できる)ピュアな心、私にはもうないよ……(再び遠い目)。

自分は心が歪みきっているので、ピュアな恋愛漫画にはあまり惹かれないのですが、『僕の先輩』は萌え&面白要素が満載ということもあってか、素直に楽しめました。あとがきで羽生山先生は「みなさん方が笑って楽しい気分になってくれたら何もいらん。と言うような歌がありますが、そんな気持ちで描きました」と書かれているのですが、まさに笑って楽しい気分になれるし、人を信じることの大切さも教えてくれる作品だと思います。

というか、私の文章能力では全くもって魅力が伝わってないと思いますので、気になったら出版社のサイトにあるサンプルページを読んでいただければと思います。

あと電子書籍のレンタルサイト「Renta!」では、2017年3月30日までの期間限定で『そうだ、羽生山へび子読もう。』という『僕の先輩』1巻収録の第3回、『晴れときどき、わかば荘』1巻〈あらあら〉収録「102号室 幕之内大輔 〜青い影〜 前編」、『きゃっつ』1巻収録「第一幕 弥源治、子猫を拾う」冒頭11ページをまとめて読める会員限定無料のコンテンツも公開されているので、こちらもぜひ。(※現在、コンテンツ公開は終了)

ちなみに『晴れときどき、わかば荘』シリーズも素晴らしく、とびきり泣ける(前篇で書いた「辛いとき、自分もこんな言葉をかけてもらいたかった」という描写をふくんだ)エピソードもあるのですが、やや刺激的な性描写もあるので、手に取る際はお気をつけください。ちなみに自分は寝付きが悪い夜は、『晴れときどき、わかば荘』2巻〈まあまあ〉に収録されている、この泣けるエピソードを読み、自分を泣き疲れさせて眠るようにしています。すみませんね、気持ちワルい大人で。

ところで『僕の先輩』には『僕の先輩 〜部屋とYシャツとおめーと俺〜』という続巻があるのですが、絶版状態なのかオンライン書店ではどこもこぞって〈注文不可〉状態。電子書籍版に手を出せば良いのでしょうが〈好きな作品は本で読みたい派〉としては、なかなか手を出せずにはおりません……大洋図書さん、お願いだから重版してください……(涙)。(※その後、長期にわたって各書店の通販サイトをチェックしまくり、無事に続巻を入手することができました。みんなも読もう!)

……いつにも増してまとまりがない文章になりまして、すみません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。心やさしい皆々様に、何か良いことがありますように☆ それでは、楽しいゴールデンウィークを。

【BOOK DATA】
写真・左:『きゃっつ 〜四畳半ぶらぶら節〜』(大洋図書刊)羽生山へび子/著、川名潤(prigraphics)/装幀 2016年3月15日発行 ¥639(税別) 写真・右:『僕の先輩』(大洋図書刊)羽生山へび子/著、Plumage Design Office/装幀 2010年10月30日初版発行 ¥648(税別)

うぉん、うぉん!(感謝のふた吠え)
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Mk_Hayashi

「偏食」ならぬ「偏読」気味の本好きによる、文芸やマンガ作品紹介〈偏読書評〉。楽しい作品と出会うきっかけとなれば幸いです。

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